“モノ”を手放し、“好き”を見つける住まいのルール。
ある時は、光を取り込む窓辺に。
ある時は、食卓を華やかに彩るテーブルに。
ある時は、風合いの良さを肌で感じるベッドリネンに。
使う場所や⽤途によって、その布の表情はがらりと変わる。
さまざまな⼈びとの暮らしから、〈14-23〉がある⾵景をお届けします。
パートナーと2人で都内のマンションの一室に暮らすのは、ルームスタイリスト兼、整理収納アドバイザーの安藤秀通(ひでまる)さん。多くのモノで溢れる暮らしから、断捨離を経て、住まいにゆとりを持つことで、人生も良い方へ動き出したそう。
フレキシブルに変化する空間へ、シーンに合わせて表情を変える〈14-23〉が、心地よい風を運びます。
整理収納の考え方や、インテリアの選び方、そしてパートナーとの暮らしをInstagram「@hidemaroom」で発信していて、多くの皆様に支持されている安藤さんは、意外にも片付けが得意だったわけではなく、むしろ溢れんばかりの持ち物の管理ができず、大好きなインテリアも楽しむことができなかったといいます。
転機になったのは3年前。ミュージアムショップのディスプレイや商品企画を手掛けていましたが、コロナが蔓延し、仕事はすべてストップ。自宅で過ごす時間が増えると、安藤さんの日常に大きな変化が訪れました。
「いつまでこの状況が続くかわからない不安がありつつ、一方で、人生を見直すいい機会だと思いました。過ごす時間が増えた住まいの環境を、居心地のいいものにしようという前向きな気持ちが芽生えてきたんです。ほんの軽い気持ちで、近所で開催していた整理収納アドバイザーの講座に行ってみることにしました。」
家の中にモノは多いけれど、自分ではきちんと整理された状態だと思っていたと話す安藤さん。しかし、講座を受けるなかで学んだ「モノとの正しい関係性」は、これまでのモノに対する概念を覆すようなものでした。
「整理は、モノを分別し手放すこと。収納は、モノの住所を決めて、使いやすく仕舞うこと。片付けは、モノを決めた住所に戻してあげること。これが連動することで、住まいをきれいに保つことができる。私にとってその言葉は、すごく衝撃的でした。自覚がなかっただけで、実はモノにすごく苦しめられていたんですよね。余計なモノを手放すことで、心にも余裕が生まれていきました。」
整理されていると思っていた住まいは、モノを箱に詰め込んでいただけで、探しものが見つからないことが日常茶飯事でした。さらに、「いつか使うかもしれない」とつい取っておいた、いただきもののタオルや、大量の鍋、色違いで購入した洋服の存在を思い出します。
「モノとの正しい関係性を学んだ日から、2ヶ月の間に半分のモノを手放しました。今では、700枚あったTシャツはたったの5枚、10足以上あった靴も3足に。食器や調理器具もキッチン下の棚に収まるだけの数に、厳選しています。」
整理収納アドバイザーの資格を取得した翌年、安藤さんは次にルームスタイリストの資格に目を向けました。
「模様替えの資格なんです。インテリアコーディネーターのように、新しい家具や小物を提案するのではなく、もともとご自宅にあるアイテムの配置や飾り方を変えることで、心地いい空間をつくるというもの。これこそ、私がやりたかったことだと気づきました。」
勤めていた会社を退職し、本格的にルームスタイリストとして活動をスタート。現在は、SNSの発信や、自宅やオフィスのスタイリングなど、整理収納とかけあわせて、好きなモノが見つかる住まいづくりをサポートしています。
安藤さんがパートナーと暮らす現在の住まいと出会ったのは2019年のこと。マンションの購入にあたって、30件以上内見して、最後に訪れたのがこの家でした。
「扉を開けた瞬間、明るい日差しと木の香りに包まれました。リノベしたばかりの空間は、収納こそほとんどなかったけど、内装は200点!というくらい2人とも気に入りました。平均点がいい家よりも、飛び抜けて好きな部分がある家のほうが、楽しく暮らせそうと思い、購入を決めました。」
47平米のワンルームは、可動式の棚によって空間を仕切れるようになっています。暮らしにあわせて自由にレイアウトを変更できることも、選んだ理由のひとつだったそう。
「コンパクトな住まいでも、レイアウトや家具の選び方、照明の当て方によって、広く見えるように工夫しています。例えば、ダイニングテーブルやデスク、棚などはすべて70cmの高さに統一。低めの家具に揃えることで、天井が高く感じられ、異素材の組み合わせでも、空間に統一感が生まれました。」
陰影を作り、空間に立体感を出す照明は、空間の至るところに散りばめられています。その数なんと20個以上。必要以上にモノを持たない暮らしでも、植物や照明などこだわりのモノはとことん集めることで、自分らしい住まいに育っていきます。
約70種類の植物を育てているという安藤さん宅。植物のグリーンが映えるよう、空間に持ち込む色味もこだわりがあります。
「ベースになっているのは、コンクリートのグレー、壁の白、床に使う無垢材の木の色。大きい家具や収納はベースの色に合わせ、ソファカバーやクッション、ラグなどは季節によって入れ替えて色味を変えています。」
掃出窓には〈Re.nen〉のグレーとチャコールグレーを組み合わせます。落ち着いたカラーが、グリーンと黒を基調としたシックな空間に馴染みます。明るい窓辺で使うことで、ふっくら優しい厚手のリネンの素材感が引き立ちます。
家具や収納は、比較的全国どこでも手に入れやすいモノをあえて選ぶようにしているそう。
「暮らしを提案するなかで、家具は一点ものを買わないと素敵につくれないと思っている方も多く、インテリアに敷居が高いイメージを持ってしまうんですよね。一般的なモノであっても、置き方、選び方次第で、心地いい暮らしをつくれる、ということを実践しながら発信しています。」
シンプルなモノほど、使い方はさまざま。取り入れ方によって、暮らしに個性があらわれます。
窓辺ではほどよく日差しを遮り、扉の代わりに生活感を隠し、肌心地のいいベッドリネンとして寝室を飾る。生活の道具として、用途にあわせて形を変える〈14-23〉は、ワンルームの住まいとの相性も抜群です。
寝室兼クローゼットとして活用する、玄関からすぐ左手にある空間には、2人分の衣服が、驚くほどコンパクトにまとまっています。玄関とプライベート空間を仕切る布として選んだのは、厚手の〈Re.nen〉です。
眠りの邪魔をしない、落ち着きのある穏やかなチャコールグレーと、優しいホワイトの組み合わせで、明るさをキープしつつ、空間を引き締めます。
寝室の小窓にかかるのは、軽やかな薄手の〈TOSS〉。温かみのあるグレーを折り返して使うことで、透け感を調整し、外からの視界もしっかり遮ります。
ベッドには、同系色でまとめた、サイズ感の異なるクッションで、オリジナルな空間を演出。ブラックとナチュラルのラインが入った〈MERCI〉をスプレッドとしてかければ、軽やかで上質な雰囲気も感じられます。
「見た目だけでなく、風合いや肌触りもすごくいいです。ベッドまわりの布は肌に直接触れる分、いいモノを選びたいですね。」
ベッドリネンにも使った〈MERCI〉は、リビングの窓辺も軽やかに飾ります。使うのは、向かって左側の腰高窓。ブラインドとキャビネットの間に透け感のある布を垂らすことで、奥行きのある空間を演出します。
「窓辺のブラインドの前に布があるだけで、雰囲気がかわりますね。植物との相性もいい。天井から垂らしているので、より空間も広く感じられます。」
寝室で見せる表情とはまた異なり、太陽の光が心地よく差し込む日中は、うっすらと見えるラインが印象的です。布越しの植物のシルエットが、より美しく感じられます。
リビングに面したカウンターキッチンの手前に、さらりとかけるのは〈TOSS〉のホワイト。透け感のある薄手の布を1枚かけることで、圧迫感なく、空間を分けて役割を持たせます。
同じく〈TOSS〉を、ワークスペース横に設置した、可動式の棚の前にも。生活感をほどよく隠しつつ、気軽にものの出し入れができます。
「突っ張り棒や、クリップさえあれば、ふだんは何もないところでも、簡単に仕切りを作ることができるのは、すごく魅力的。布1枚でいろんな可能性を感じました。」
モノを手放したことをきっかけに、暮らしが変わり、人生が変わったという安藤さん。
「整理することで部屋をきれいにするだけではなく、心まで豊かになる。持ち方を見直したら、自分にとって大事なものが見えてきました。」
樹々の葉が落ち、これから凍える冬がきます。ソファーカバーをコーデュロイ生地に替え、赤やブラウンの小物を飾る。身軽になった心で、ゆったりと四季を楽しみながら、好きなモノに囲まれた心地いい暮らしを更新していく。