暮らしながら変化を楽しむ「未完成」の空間
ある時は、光を取り込む窓辺に。
ある時は、食卓を華やかに彩るテーブルに。
ある時は、風合いの良さを肌で感じるベッドリネンに。
使う場所や⽤途によって、その布の表情はがらりと変わる。
さまざまな⼈びとの暮らしから、〈14-23〉がある⾵景をお届けします。
都内で夫と2匹の猫と暮らす料理家の柚木さとみさん。結婚を機に購入した古い一軒家は、フルリノベーションし明るく居心地のいい住まいに。自身の暮らしとじっくり向き合った、オリジナリティ溢れる布の取り入れ方にも注目です。
「インターネットで物件を探している時にたまたま見つけたのが、いまの家です。“古家付き土地“として売りに出されていたので、物件自体は取り壊し前提で掲載されていたのですが、レトロな外観に惹かれるものがありました。気になって現地まで見にいってみると、高い塀に囲われてほとんど中は見えない状態でしたが、わずかに見えた唐草模様のベランダの手すりや、玄関のガラスブロックに一目惚れ。“なんかいいかも”と、家の中に入る前から、ここで暮らすイメージが湧いてきました。」
結婚を機に、夫婦ふたりで暮らす家を探すうちに出会った一軒家。築40年以上になる古家は、薄暗く一階の和室の畳は朽ち果てているような状態でした。
解体して新たに建て直すことも考えましたが、少しでもいいから元ある素材を活かしたいと、リノベーションする方法を選んだ柚木さん。高校の同級生である設計士と家具デザイナーの2人の友人の協力を得ながら、外壁の改修から、内装のデザインにいたるまで、少しずつイメージを固めていきます。
古家の再利用のため、自由が利かない点も多く、デザインは難航。リノベーションを終え、ようやく住めるようになったのは、購入から1年8ヶ月が経った頃でした。
家を支える柱や、レトロな門は、以前の家が持つ記憶として残しつつ、閉鎖的な塀や壁は取り払い、開放的な空間に生まれ変わりました。
玄関とリビングをつなぐガラス扉、2階へ続く階段、食器棚、キッチンの作業台やソファなど、空間を構成する新たな要素は、友人がデザイナーを務める家具ブランド「gleam」によるもの。廃材を利用した家具は、長い歴史の中で育まれた風合いや質感を持ち、空間に温もりを生み出します。
実は、古い家の改修はこれで2回目。料理教室やレシピの開発に、柚木さんがアトリエとして使う場所もまた、築60年を超える物件です。新居へ越すまでの5年間を、自宅として過ごした空間でもあります。
「以前はほとんどセルフリノベーションだったので、断熱も十分ではなく冬は凍える寒さになるんです。その反省もあって、新居は暖かい家にしようと決めていました。神社の改修なども手掛けるほど腕の立つ工務店さんにお願いして、家全体に吹付断熱をいれたことで、真冬も裸足で歩けるくらい心地いい。おかげで家からあまり出なくなりました(笑)」
古い家の魅力は、時の流れが一目でわかる経年変化にあります。木や鉄、天然繊維など、時間が経つほど、味わいが増すものにこそ、愛着が湧くと話す柚木さん。その原点は生家での暮らしにありました。
「青梅市にある実家は、長らく塾を営んでいたんです。1階は教室で、2階と3階が住居になっていて、両親と4人の姉と暮らしていました。昭和一桁生まれの父が外国に憧れたのか、シャンデリアや洋風のバスタブがあって、採光のため北側の壁面はガラスブロックで出来ている。洋風な作りながら、家のなかに4畳半の茶室があったりもして。木やガラスの素材感を大切にした家で育ったこともあって、その影響が現在の生活にも反映されているんだと思います。」
素材感のあるもの選びは、家具だけでなく、仕事道具である調理道具にも通じます。棚に並ぶのは木やガラス、ステンレス製のツールや器。使用頻度の高いものは、素材ごとのオープン収納に。友人を招いての食事も多い家は、キッチンからダイニング、リビングと軽やかに行き来できる、動線がいい間取りにもこだわりました。
「一目惚れだったミントグリーンのタイルを壁一面に使ったのは、我ながら思い切った選択でした。結果は大正解。ダイニングとリビングがひと続きでありながら、メリハリのある空間になりました。」
英国のヴィンテージのラウンドテーブルは、サイズが調整できる伸長式。インテリアとしてだけでなく、継ぎ目部分の目隠しとして、テーブルクロスが活躍します。今日の食卓を彩るのは、タイルと同じミントグリーンの〈Re.nen〉。新芽が吹く春の訪れを感じさせるようなやわらかな布は、フレッシュな野菜の色をより美しく見せます。
はじめから完璧な家を目指したわけではなく、生活をしながら気づいた部分を反映させ、つねに変化する家づくりを実践している柚木さん。たとえばそれは窓辺でも。
「1階リビングの窓辺は、最近、レールを窓より高い位置に変えました。布に高さが出たことで、空間がより広く感じられるように。薄手と厚手、無地と色柄、季節や気分に合わせて、窓周りの景色も入れ替えていきたいですね。」
「もともとプリーツのないシンプルな布を探していて、気に入るものがなければオーダーするつもりでした。そんな時にieno textileさんを見つけて、“そうそう、求めていたのはこういうフラットな感じ”と、理想の布に出会えてうれしかったのを覚えています。」
ホワイトとグレーのツートンカラーの〈Ufufu〉は、透ける素材と透けない素材、2つの異なる素材の特徴を併せ持つユニークな1枚。上下を付け替えるだけで、雰囲気や役割が変化するので、日差しの強さや、視界を遮りたいスペースに合わせて、1年を通して活躍してくれそう。
1階に広々としたリビング・ダイニング、2階には寝室やランドリースペースに加え、第2のリビングがあります。階段を登った先にあるもうひとつのリビングは、天井の高いロフトのような構造で、ゆっくりと映画をみたり、仕事をしたり、フリースペースとして活用しています。
「要素を減らした1階のリビングとは違い、賑やかな場所にしたくて、窓辺には〈Re.nen〉のキャロットを選びました。天井が高く抜け感もあるので、植物やモビールを垂らして、立体的に空間を楽しんでいます。」
壁や扉と違い、空間を広げたり、区切ったり、自由に調整できるのが布のいいところ。
「友人が泊まりにきたときに個室として使えるように、オープンにしている階段側に仕切りの布を取り入れることも、可能性のひとつとして考えています。」
ベッドのすぐ隣に設けたウォークインクローゼットには、扉をつけず、好きな布で目隠しを。自分たちで塗ったという淡いピンクの壁は、日差しをやわからく受け止め、部屋全体に穏やかな印象を与えます。
クローゼットから続くランドリースペースの窓には、光を取り込むしなやかな〈TOSS〉のグレーが掛かります。ベンチに腰掛け、洗濯が終わるのをのんびり待つ。時々、室内窓からリビングで遊ぶ愛猫の様子をうかがいながら。
「越してきたばかりの頃、元気がなかった庭の梅の木は、今ではすっかり葉が茂り、枝もぐんぐん伸びてきました。家と同じように植物も、人が暮らすことで、いい環境が整うみたい。今年は、家づくりの延長に、庭の手入れも楽しみたいです。」
住まいはまだ「未完成」。数年後、数十年後、完成と呼べるその日まで、変化する環境にあわせ心地いい家を築いていく。窓を開ければ、今日も新しい風が家中を巡ります。
14-23 Re.nen (WT)
リネンの生地の製造過程でどうしても出る布の端材部分や糸の残りを集め、リサイクル技術を活かし再活用した植物を原料にしない新しい発想の質感が良く丈夫なリネン100%のスペインならではの厚手の布です。
10,800円(税込11,880円)
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