築50年のマンションをリノベ。窓辺から考える、開かれた家づくり。
ある時は、光を取り込む窓辺に。
ある時は、食卓を華やかに彩るテーブルに。
ある時は、風合いの良さを肌で感じるベッドリネンに。
使う場所や⽤途によって、その布の表情はがらりと変わる。
さまざまな⼈びとの暮らしから、〈14-23〉がある⾵景をお届けします。
祖母から譲り受けた築50年のマンションを、若き建築家自らリノベーション。東京都渋谷区に位置し、「ヨヨギノイエ」と名付けた家には、自然と人が集まります。オープンな暮らしの中心には、表情豊かな窓辺がありました。
富ヶ谷の住宅街、レトロなマンションの一室に、その家はあります。玄関の扉を開けると、まず視界に入るのが、明るく開放的なリビングダイニング。建築家であり、この家のオーナーである日高海渡さんが、家づくりに関して、何よりまずこだわったのは、この玄関から眺める景色でした。
「家を作る時のテーマが『人が集まる家』でした。約100㎡。一人暮らしには持て余した広さです。だったらオフィスと兼ねて、友人たちと気兼ねなく集まれる場所にしようと、2LDKのオープンな間取りに変更。玄関から各部屋につながる廊下をなくすことで、足を踏み入れた瞬間に窓の景色まで望める、開放感が生まれました。」
寝室のプライベートルームをのぞいて、「ヨヨギノイエ」は、大きく3つの空間に分かれています。キッチンの横に位置するダイニング、窓辺に置いたデイベットで寛ぐリビング、そして、趣味で集めた世界各地の民芸品や布で装飾する、オープンストレージです。
それぞれの空間づくりにおいて、一番のこだわった部分が「窓辺の景色」にあるといいます。例えばダイニング。一列に並んだ空のワインボトル、インドで購入したバティック(ショール)、生命力溢れるグリーン、その全てが、窓辺を演出する大切な役割を担っています。
「マンションのリノベーションをする時は、窓自体にタッチしてはいけないんです。建物全体の価値に関わってくるので、バルコニーや廊下と同じ、いわゆる共有財産にあたります。ただ、窓枠を変えられなくても、その手前をどう演出するかはもちろん自由です。過ごし方によって、窓をとりまく景色は変えられます。」
柄物のバティックを引き立てるように迎えた〈14-23〉。透けるグレーの〈TOSS〉が、朝の光を、やわらかく取り込みます。
窓辺を中心に構成される「ヨヨギノイエ」ですが、日高さんが手がける空間づくりの原点は、学生時代にありました。
「大学院では、『窓ではなく、窓辺でとらえよう』というテーマのもと、窓辺の研究をしていました。窓枠部分だけでなく、まわりの風景を含めて窓を評価するというもの。研究室の学生たちは、それぞれの担当する国へ赴き、窓の採集を行なっていました。当時、わたしは留学中だったこともあり、滞在先のイタリアで採集を行いました。」
授業や課題の合間に、イタリア中を訪ね歩く日々。観光地として知られた町ではなく、電車も通ってないような田舎町が気に入り、何度も通ったそう。なかでも興味を持ったのが、南イタリア。寒い地域と比べて、ラフな作りの家が多く見られました。
「北部と南部では、家に使う素材も違えば、構造もまったく違う。窓はガラスをはめずに、オープンエアな様子が目立ちました。家というより、ほとんど外のような。住人たちの大らかな性格が、家にも表れているようでした。」
「窓辺こそ、文化や環境の違いが表れる部分だと思います。」と日高さんは話します。採集に参加した研究室の成果は、『Window Scape 窓のふるまい学(フィルムアート社)』として、現在も出版されています。
寝室以外では、視線を遮ることを目的にカーテンを使っていないという日高さん。「2階に位置する部屋の窓には、街路樹の葉がちょうど映り込むんです。仕事の合間に、デイベッドに寝転び、日光浴をするのが日課です」。開け放された窓からは、都会にいながら森で過ごしているような、穏やかな景色が広がります。
リビングの窓辺を飾るのは、2種類の異なる糸でストライプ柄を織る〈BAUMKUCHEN VOILE〉と、軽やかに光が浮き上がる薄手の〈THIME〉。質感のちがう2枚の布は、春の陽気に合わせて踊るように揺らめきます。
「角度によってきらきら光るTHIMEは、〈14-23〉のなかで一番のお気に入りです。夜には照明の灯りに照らされ輝きを増すようで、朝と晩の表情の違いを楽しんでいます。」
「余計なモノが置かれず、完成した直後の状態が最も美しい空間もありますが、僕は、モノが入ってから魅力的にみえる空間が好きです。」
「ヨヨギノイエ」が目指すのは、“ヒトもモノも主役になれる空間”。暮らし初めて5年が経った現在は、引っ越し当時よりさらに、家への愛着が増しているといいます。
「完璧な四角形ではなく、あえて空間に凹凸を設けるようにしました。棚を置くことを前提に壁に凹みを作ったり、剥き出しの天井を生かしたり。空間に“溜まり”を作ることで生まれる、空間の陰影をデザインしています。」
祖母から譲り受けた築50年のマンション。これまでの住まいの歴史を引き継ぎ、また新たな側面を引き出すように設計された「ヨヨギノイエ」。暮らすほど、個性が育まれる場所へ進化し続けています。
理想の空間にあわせて、モノを買うことは、あまりしないと話す日高さん。使い道を考えずに、旅先で一目惚れしたものを持ち帰ってしまうことが多いといいます。
「惹かれるのは、古いものや、手触りがいいもの。買ってから、家のいろんな場所に置いてみて、しっくりくる居場所を決めています。部屋のスタイルに合わせてモノを選ぶことはないけど、好きで選んだモノ同士は何らか関連性があるようで、意外と置き場所に困ることはないですね。」
日高さんがとくに熱心に集めるのが、手仕事を感じる布です。「最近は、アジアや中東系を旅先に選ぶことが多く、現地で気に入ったものを持ち帰っています。スカーフやマフラーを、ブランケット代わりにしたり、テーブルクロスにしたり。とくに気に入ったものは、額にいれて飾ることも。用途を固定せずに自由に使っています。」
最近のお気に入りを尋ねると、紹介してくれたのが大胆な鳥の刺繍が美しいこちら。「メキシコのオトミ族のテナンゴ刺繍のタペストリーです。刺繍なので近づくと模様が立体的に見え、鳥達の羽が本当に生えているかのような生命感を感じます。」
壁にかかったシャツもまた、日高さんにとっては「デザイン性のある布」のひとつ。「好きな柄を見つけるとつい買ってしまいます。ファッションとして楽しむのが難しいものは、服の形をした布として飾っています。」
「大判な布のよさは、そのしなやかさにあると思います。畳むと簡単に形が変わり、折り目やシワによって生まれる表情さえ、魅力になる。用途を限定せず、使い方も自由です。部屋を仕切ったり、光を遮ったり、壁とは違う柔軟性を持って、空間づくりを担ってくれます。」
リビングとダイニングを緩やかに繋ぐのは、〈TOSS〉のホワイト。マグネットタッセルを付ければ、布に軽やかな動きが生まれます。
世界各地から持ち帰った、家具や小物が、絶妙なバランスで織り交ぜられた床座のスペース。日常とは切り離されたギャラリーのようなこの空間を、オープンストレージと呼んでいます。
「床、壁、天井すべて白で仕上げ、飾るアイテムの質感や色味のみで、空間を作り込みました。」
ご両親の仕事の関係で、幼い頃から海外での暮らしが長かったという日高さん。3歳まで過ごしたパキスタンで使っていた家具は、帰国後も日本の家で使い続け、現在はそのほとんどが「ヨヨギノイエ」に持ち込まれています。
子供の頃は、「違和感」として受け取っていた異国の道具は、現在、新たに集めた布や器と混ざり、家の個性を象徴する道具として、確かな存在感を放っています。
好きなものを詰め込んだ空間に持ち込む〈14-23〉は、〈Re.nen〉のイエローと、〈TOSS〉のネイビー。大胆な組み合わせのカラーも、インドのマクラメで作るカーテンバランスを合わせることで、趣味の民芸品ともよく馴染む。光に透けるしなやかな布は、外の風景を必要以上に遮ることもありません。
「アクセントに明るいカラーを取り入れるのも新鮮でいいですね。マクラメとの組み合わせも、手仕事があふれる空間にマッチして好印象です。」
友人と食卓を囲むことが日常である現在の暮らしと反して、以前は、自宅に人を呼ぶことは全くなかったという日高さん。「ヨヨギノイエ」で過ごすなかで、自身の内面にも変化が現れたといいます。
「オープンマインドな性格になりましたね。オフィスやお店みたいに、人を呼ぶことを前提に作った家なので、生活に人の気配があることも気にならなくなりました。植物を育てたり、料理をするようになったり、カーテンで生活を閉じなくなったのも、この家に来てから。」
窓を開けば、心まで開く。今日もひとり、またひとりと新しい顔が家を訪れます。違和感を受け入れ、変化を楽しむ「ヨヨギノイエ」。窓の外には、変わらない景色が広がっています。
14-23 BAUMKUCHEN VOILE (BR)
透けにくい自然な厚みの場所と良く透ける場所の特性を活かし、空間に解け込むテキスタイル。
8,800円(税込9,680円)
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