世界が注目する、布のトレンドのお話。 Heimtextil Trends 2024/25
ある時は、光を取り込む窓辺に。
ある時は、食卓を華やかに彩るテーブルに。
ある時は、風合いの良さを肌で感じるベッドリネンに。
使う場所や⽤途によって、その布の表情はがらりと変わる。
さまざまな⼈びとの暮らしから、〈14-23〉がある⾵景をお届けします。
2021年からスタートした「14-23のあるくらし」はおかげさまで29回目となります。
これまで様々なすてきなお家に伺い、自然と暮らしに寄り添う<14-23>がある風景をお届けしてきました。
今回は番外編としてieno textile主宰の南村弾より、世界が注目する、布のトレンドのお話を昨年に続きさせて頂きます。
いつもどうもありがとうございます。ieno textileの南村弾です。
2024年の1月にドイツ・フランクフルトで世界で最も大きな布の展示会、「Heimtextil (ハイムテキスタイル)」が開催されました。ホームテキスタイル分野で、最新のトレンドを1971年から50年以上発信し続けてきた歴史のある展示会です。
我々は2009年~2019年の10年間、ハイムテキスタイルのトレンドセッティングを行い、2020年からはアンバサダーとして関わっています。
今年はようやくコロナ関連の規制が世界的に和らぎ、出展者も来場者も大きく増えて賑やかな開催でした。
特に今回のトレンドエリアは、これまで見たことがない程の規模での開催でした。その面積は、サッカー場くらいのびっくりする大きさで、世界の変化に焦点を当てて、インスタレーションやカラーの展示、未来の布の話や布産業のAIの活用法など様々な変化を紹介しました。
また、これまで50年間のハイムテキスタイルはトレンドを原動力としてきましたが、「今回は世界の変化を原動力にした。」と公式に発表するほどマーケティングに基づいて、世界の変化を多く的確に捉えていたことが最も印象的でした。
今回のトレンドの内容は量も質もとても充実していて、全てをお伝えしたいので長文になりますが、最後まで何卒宜しくお願いいたします。
今回のトレンドは、「え?、ほんとに?」みたいなびっくりする変化(情報)も多く、それらの新しい感覚や感性として「new sensitivity」というタイトルで行いました。
後に紹介する本題のトレンドの前に、世界で起きている5つの大きな変化をまずご紹介します。
1つ目は、
・通常の観葉植物の30倍程度の汚染物質を吸収できるバイオ工学処理された植物の生産が始まりました。
2つ目は、
・アメリカの工業用縫製工場で、「持続可能性は人から始まる」というフレーズを掲げ、縫製や繊維の生産について学び、スキルアップできるような取り組みが始りました。
3つ目は、
・3Dプリントの利点は多く、現地で製造できること、単一素材であること、オーダーメイドが可能であること、そしてリサイクルの原材料が一般的になりました。
4つ目は、
・デンマーク政府が2023年7月から繊維廃棄物を直接家庭から回収を始めました。それらの繊維をAIでポリエステルやコットン、麻、ウールなどの選別を行い、リサイクルの工場で処理され新しい繊維や布へと加工されます。
5つ目は、
・動物細胞から合成肉を製造する培養肉メーカーが、アメリカ食品医薬品局の承認を始めて受けました。
これらは今すぐに布の産業へ影響する変化と近い未来に影響がでてくる変化と2通りあるはずです。
しかし面白いのはこれらの変化は、先進的なテクノロジーの進化もあれば、100年前に戻るようなモノ作りの原点もあり、改めて不思議な時代を過ごしてるなぁ、と実感しました。
次に見ていきたいのは未来の布はどうなるのか、という予測です。
新品が悪いわけではありませんが、新品の布を作ると必ず余る部分や、世界的に支持され多く生産しているデニムなどは、なるべく再利用することや、基本的に土に還る生分解する布、などは未来の中心になり得ると予測できます。
これらは、まさにコロナ禍が加速させた地球にとって良い方向とも言えます。
実際に布を作る工場のみんなも世界の大きな変化を察知して、出来る限り持続可能な方法を模索しています。
多くの工場からヒアリングした結果、大きく分けて3つの異なるアプローチが布の工場の全体にわたって生じていることがわかってきました。
・植物由来であること
・手仕事の可能性
・テクノロジーの活用
です。
実はこれまで布の業界では、世界の変化と未来の予測、実際のモノ作りが連動したことが無いように思います。しかしこのタイミングで初めておおよその方向が一致したと捉える事ができるのではないでしょうか。
先ほどご紹介した通り、今回のトレンドは、新しい感覚や感性として「new sensitivity」というタイトルです。
ここからは2024/25の3つのトレンドカテゴリーを詳しく見ていきたいと思います。
まず、最初のカテゴリーは「Plant-based textiles」です。
植物や副産物を原料とした繊維で合成的に生産されるのでは無く、自然の成長や循環する流れであることが重要です。ここでは2つの種類に着目しています。
まずは、サボテンや麻、アバカ、海藻、ゴムの木などの回復力のある「植物由来の繊維」です。町のお花屋さんにも並んでいる植物が中心でもありますね。
続いては、バナナやオリーブ、柿などの生産時に残った「副産物を原料とする繊維」です。町の八百屋さんに並んでいる食物が中心でもあります。
これらの繊維を活かして、いわゆるこれまでの布や革と見分けのつかないレベルでの製造がすでに始まっています。
このような流れは知らない間に広がっている事が多いので、みなさんがお持ちのクッションが実は元バナナだったり、ラグは元海藻だったって事が起き始めると思います。
続いてのカテゴリーは「Technological textiles」です。
今すでにある素材を活かして手仕事が可能にするパッチワークなどや、不要な布を回収して作るマイクロファイバーなども美しい仕上がりです。
また、3Dニットの完成度もどんどん高まり、デザインを入力するだけで縫製まで行い完成品が出てくる時代になりました。これらの技術は布の無駄が減りながらも、ファッションやインテリアなどでのデザイン性の幅が広がっていることも特徴です。
一言でテクノロジーと言っても、幅が広すぎて捉えづらい時代だと思います。人が縫う、作ることも含まれるテクノロジーは本来あるべき良い状態に進んでいて、ホッとします。
最後のカテゴリーは「Bio-engineered textiles」です。
生分解性を促進するために生物のもつ機能を利用する技術がテーマです。生分解性は端的にいうと地球・土に還るという意味合いです。
ポリエステルやアクリル、ナイロンなどの化学繊維は通常土に還る事はありませんが、香港のアメリカ系企業のcicro社が開発した薬品を添加すると化学繊維も土に還る状態が作れるようになりました。まさに生物のもつ機能を利用する技術と言えます。
天然由来の生分解性をもつ繊維としては、トウモロコシや牧草、サトウキビに含まれるタンパク質、炭水化物、細菌を原料とした繊維なども生産され始めています。
また、近年最も注目されている素材にキノコの菌糸体やバクテリアナノセルロースなどを加工した繊維や代替えのレザーの生産も注目を集めています。
だいぶ前ですが、ヨーロッパの若い家具のデザイナーが、「100年前の家具のデザイナーは100年使える家具を目指すべきでした。しかし今の家具のデザイナーは100年後は作ったものが全て地球・土に還っていなければいけない。」と話していました。
極端な話ですが、全ての産業で同じ事が言える時代になったと思います。
そんな、3つのカテゴリーと共に今年もトレンドカラーを発表しました。
地球から色を採取した16色の構成です。今回の色のテーマは、どの色同士を組み合わせても美しく成立することです。また、耐久性に優れた色や経年変化することも重要な事と提案を行いました。
また、展示エリアでは天然由来の染めやバイオテクノロジーを活用した地球になるべく負担をかけない方法を中心に提案しました。
このような流れで、世界で起こっている変化を捉えながらトレンドの発信を行いました。多くの場面でパンデミックが、本来あるべき方向へ向かわせたことが多いようにも思います。
あの出来事が起きたことは良くないですが、結果として歴史の中で良い転換点になっていけば、と思うHeimtextil Trends2024/25でした。
最後までご覧頂きどうもありがとうございます。
次回はいつもの「14-23のあるくらし」です。すてきなお家にまたお邪魔しています。
どうぞこれからもよろしくお願い申し上げます!