アンティークが引き立つ、カフェのような家。
ある時は、光を取り込む窓辺に。
ある時は、食卓を華やかに彩るテーブルに。
ある時は、風合いの良さを肌で感じるベッドリネンに。
使う場所や⽤途によって、その布の表情はがらりと変わる。
さまざまな⼈びとの暮らしから、〈14-23〉がある⾵景をお届けします。
築25年の中古マンションを購入し、加藤詩織さん・若松輝さんご夫婦の新生活がはじまったのは去年の10月のこと。空間デザイナーの詩織さんが自ら手がける実験的な住まいには、ふたりで選んだこだわりのアンティーク家具が散りばめられています。印象的なアーチ状の窓辺にかかる〈14-23〉は、時を重ねた家具と共に穏やかな景色をつくります。
「都心まで電車で1本。実家の近くである緑豊かなこの街で暮らすことを決めてから、家を探しはじめて約一年が経った頃、ようやく出会ったのがこの場所でした。決め手は日当たりと広さ。80平米以上ある中古マンションの一室はリノベ前の物件でしたが、間取りも含め自分たちで自由にデザインしたかったので、僕たちにとってはむしろ好条件だったんです。」(輝さん)
中古マンション探しとリノベーションのワンストップサービスを手がける「リノベる」で、空間デザイナーとして働く詩織さん。入社してからいくつもの家の設計・デザインを手がけてきました。今回は初めて自宅のデザインに取り組むにあたって、実験的な要素をふんだんに取り入れたのだそう。
「“住宅感を消す”ことをテーマにしています。たとえば窓。窓枠の角にアーチをあしらい、壁と一体化させることで、生活の気配を抑えています。壁には住宅であまり見られないような、テクスチャーのある塗装にこだわりました」(詩織さん)
自分たちで塗った壁は、純粋な白ではなく、やわらかな印象のグレージュがかった白色。アンティークに馴染む色を選んだそう。
「造作にこだわるうえで大変だったのは、現場とイメージを共有すること。イメージをイラスト化しながら、丁寧に伝えていきました。」(詩織さん)
なるべく既製品を使わず、一点もののアンティークや、造作家具でオリジナリティを表現。その分、お風呂などの水回りはシンプル設計で、コストを調整しているのだとか。
家具や小物選びは、お気に入りのカフェからインスピレーションを受けることも多いといいます。
「内装にこだわっているお店へいくと、家具だけでなく、スイッチやトイレットホルダーなどの小物にもつい目がいきます。蔵前や京都にある落ち着いたカフェの雰囲気を参考に、アンティークが主役の空間づくりを楽しんでいます。」(詩織さん)
落ち着いたカフェのような空間を目指しながらも、日々の生活する場所ということで、光が巡る明るい空間を意識したそう。リビングダイニングに広がる大きな窓には、マルチクロスの〈14-23〉を迎え入れました。
シルクノイル糸を使った優しい風合いの〈KINU〉は、レースカーテンと組み合わせることなく、1枚でほどよく光を取り入れ、視界も遮ります。
天然素材の麻とシルクを使用しているので、上質な質感と心地よい肌触りが特徴。壁と同系色の落ち着いた色味はアンティーク家具とも相性が良いです。
「当初は、窓周りをもっとカラフルにする案もありましたが、あとから家具や小物で空間を賑やかせるよう、インテリアと調和するシンプルなカーテンを選びました。古いアイテムとのバランスもよく、1枚で窓辺が美しく整うので、すごく気に入っています。」(輝さん)
マスタードイエローのメローロックは、窓の高さに合わせて前側に折り返すことで、ささやかなアクセントにもなり、優しい空間を演出します。
広々としたダイニングテーブルや、洗面台として使うサイドボードや、リビングドアに迎えたアンティークの玄関扉は、京都の古道具屋を巡って出会ったもの。空間を仕切る建具の取手にも、ヴィンテージのアイテムを取り入れました。
「もともとアンティークの家具に憧れがありました。お互いヴィンテージのものが好きだったこともあって、アンティークショップを巡っていくうち、夫婦ですっかりハマってしまいました。京都の〈70B〉で出会ったサイドボードは、洗面台としてリメイクしています。」(詩織さん)
間取りを大きく変え、一から空間をデザインした住まいは、このこだわりの洗面台から図面を描いていったのだそう。
「廊下のスペースを有効活用できるように、洗面台を玄関からリビングまでの導線上に配置しました。実際住んでみると、廊下に身支度空間があるのはかなり便利です。帰ってからすぐに手を洗ったり、出かける前にささっと髪をなおしたり。忙しい朝に夫婦で並んで、洗面台に立てるのも気に入っています。」(詩織さん)
「仕事でお客様の住まいの要望をヒアリングする時も、家族で過ごす時間が増え、住まいに目を向ける人が増えた感覚はあります。うちのように洗面を玄関の近くに置いたり、ワークスペースや趣味部屋、子供部屋がほしいという声は、以前より格段に増えました。」(詩織さん)
普段は在宅での仕事がメインだという輝さんのワークスペースもしっかり確保。デスクスペースには、リビングダイニングと同じ〈KINU〉を選び、空間に統一感を持たせつつ、明るい光を取り込み仕事にも集中できる空間にしました。
ひとりで過ごす休日は、ソファでのんびりすることが多いという詩織さん。よりよいリラックスタイムを演出するべく、今回、普段とは違うアレンジとしてご提案するのが新作の〈SEIRO〉。竹や木を編んで作られた伝統的な料理器具の蒸篭からインスピレーションを得たデザインです。
蒸篭のような優しい色味と絶妙な光沢感があり、ナチュラルな空間やモダンな空間にも寄り添う、心地よい光と風を取り込む薄手の一枚です。
床に落ちる影にも、〈SEIRO〉の柄が現れる様子もまた美しい。
キッチンのパントリーの間仕切りには、〈Re.nen〉のイエローをセレクト。空間のアクセントカラーとして、また、面しているダイニングの〈KINU〉のステッチのイエローとも合わせることで、空間全体に自然なつながりを作っています。
「パントリーや玄関収納など、荷物の多いところは、開閉しやすいように布で仕切っています。窓辺をシンプルにした分、仕切りには明るい色を選ぶことで、アクセントにもなり正解でした。建具とちがって気分で替えられるのもうれしいです。」(詩織さん)
冷蔵庫や家電、食器類はパントリーの中に。透けない厚手の〈Re.nen〉をかけることで、気になる生活感をさらりと隠すことができます。
「料理は基本的には僕がつくるので、フルフラットのキッチンを選びました。無垢材のキッチンなので、アンティーク中心の空間でも浮くことなく、馴染むものを妻が選んでくれました。」(輝さん)
日常の料理だけでなく、コーヒーやお茶にも造詣が深いという輝さん。休日はカフェ巡りを楽しんでいたふたりですが、新居に移ってからは、自宅でお茶の時間を過ごすことが増えたのだそう。
キッチンとリビングを回遊するようにつながる寝室には、パントリーの仕切りと色違いで〈Re.nen〉のミントを取り入れます。素材と質感が同じなので、統一感を出しつつ空間に馴染みます。
遮光の機能性はないけれど、視界を遮り、夜に灯りを付けても外からは中の様子は見えません。やわらかなリネンの天然素材を通して、朝はほどよく日差しを感じつつ、気持ちよく目覚められます。
家具や内装だけでなく、詩織さんのこだわりは照明にも活かされています。空間ごとに違う素材の照明は、ダイニングは金属製、キッチンはガラス製。玄関とワークスペースと寝室には、以前より憧れていたという「POINT NO.39」のブラケットライトを使用。
さらに、ソファの上を飾るのは、紙のような質感で存在感のある「HAY」の照明を選びました。
住まいで使う金具のほとんどが真鍮製。経年変化をしていくものなので、アンティークとの相性が良いのだとか。
「リビング扉もアンティークで、取手には真鍮を使っているので、これから使うほど味が出てくると思います。少しずつ雰囲気が変わっていく様子も楽しみです。」(輝さん)
「テレビボードとデスクを兼ねる造作家具は、最近わりと見られますが、我が家では実験的にベンチを備えてみました。ソファの反対側にも居場所をつくることで、こだわってつくった空間を、いろんな角度から眺められるので気に入っています。」(詩織さん)
窓を開け放し、外へ足を伸ばすようにベンチに腰掛ければ、そこは縁側になる。はじめての夏が訪れる頃、アイスやビールを片手に、のんびりと寛ぐふたりの姿がそこにあるはずです。
実験的な空間で過ごす、健やかな日常。インテリアを選び、おいしい時間を共有し、時には少し未来の予定を描く。ひとつひとつの生活の軌跡が、住まいを育てていく。