風が巡る丘の上、庭とつながる平屋暮らし。
ある時は、光を取り込む窓辺に。
ある時は、食卓を華やかに彩るテーブルに。
ある時は、風合いの良さを肌で感じるベッドリネンに。
使う場所や⽤途によって、その布の表情はがらりと変わる。
さまざまな⼈びとの暮らしから、〈14-23〉がある⾵景をお届けします。
3回家を建ててはじめて理想の住まいに出会えるといいますが、建築デザイナーの井手しのぶさんが現在暮らすのは、7軒目のマイホーム。
自ら設計した鎌倉の平家は、「終の住処」としてひとり暮らしの生活をコンパクトにまとめたもの。
1LDKのリビングの窓からは、大切に手入れされた自慢の庭が広がります。心地よく風が巡る空間に、夏を飾る布を迎えてみたら。自然と一体化した風景のなかで、〈14-23〉は軽やかにその身を揺らします。
「90歳くらいまでひとりで快適に過ごせるように、できるだけお金をかけず、ミニマルで居心地のいい空間を実現したのがこの家です。」
海を見下ろす丘の上に、家を建てたのが今から9年前。竹やぶを開墾し、土台をつくり、70平米の平屋が完成しました。夏は窓を開ければ風がよく通る。冬はモルタルの床が太陽光を蓄熱して暖かく、日差しもたっぷり入るので、日中はほぼ暖房いらず。光熱費を節約しながら、年間を通して快適な住まいが実現しました。
もともとガーデンデザイナーをしていたこともあり、庭づくりが大好きだという井手さん。リビングの大きな掃き出し窓からは、縁側のようにひらかれたデッキが庭につながり、四季折々の庭の表情を楽しんでいます。
「ここへ引っ越す前に暮らしていた住まいは、葉山の海が見渡せる家でした。眺めこそよかったけれど、海風で草木は育たず、森の暮らしが恋しくなって、今の住まいに引っ越しを決めました。とはいえ、今の家からでも丘を下れば海まで歩いて10分。視界の奥に海を感じつつ、庭づくりも楽しんでいます。」
庭には、レモンやイチジク、プラム、パクチーなどが育ち、生き生きと庭を飾ります。野菜やハーブは食卓に登場することもしばしば。
土間に設けた小さなキッチンは、もともとはI型のシステムキッチンだったそう。
「機能的なキッチンでしたがサイズが大きすぎて、むしろ生活導線が悪かったこともあって、アイランドキッチンに変更しました。石屋さんで購入した大谷石を自分で貼って、好みのデザインを楽しんでいます。」
住まいをコンパクトにするにあたって、収納スペースは以前の家の3分の1に。気に入っているものだけを手元に残し、収納から溢れたものや、家に合わないものは思い切って手放したのだそう。
寝室に設けた壁一面の棚には、本や小物を収納。旅先で出会ったアンティークリネンも、いつでも取り出せる場所に管理しています。
収納を寝室の一箇所にまとめ、開放的なリビングには、お気に入りの小物やインテリアを散りばめることで、ミニマルで洗練された空間が生まれました。
以前はリビングの床一面に敷いていた、色とりどりのラグやキリムも、愛犬とのお別れのタイミングですべて手放したそう。現在の住まいに移ってからも、環境の変化にあわせ、よりシンプルに洗練されていきました。ものが少ないことで、収納や日常の掃除も快適に。
玄関の目の前に設けたダイニングテーブルは、来客時に活躍。友人とちょっとしたおしゃべりや、ゆっくり夕食を取る時もここで。ひとりで使うことはあまりないそう。ダイニングチェアは、アーコールの子供用の椅子。住まいに合わせたコンパクトなサイズで、スタッキングもできる優れもの。
今回は、季節感や、特別な時間を演出する時に使えるテーブルクロスとして、ペットボトルから生まれたリサイクル生地の〈LA〉のミントを迎えました。
布は日常的にカーテンの代わりにつかったり、テーブルにさっとかけて楽しんでいるという井手さん。そんな彼女にとっても、日常の景色と組み合わせた〈14-23〉には、新鮮さを感じたそう。
「自分ではあまり選ばないカラーですが、こういう取り入れ方もいいですね。アンティークのような柔らかな素材感が、古道具とも相性が良いみたい。」
しっとりと上質な空間をイメージした優しいミントは、木の素材感やシンプルな壁の白とも組み合わせて楽しめるカラーです。
厚みのある生地感は、テーブルクロスとして使用すると、ふっくらと肌触りがいいので、ダイニングでの時間を心地よく過ごせます。
庭とリビングをつなぐ大きな窓を開ければ、心地よい風が部屋中を巡りますが、夏は日差しが気になる瞬間もあると話す井手さん。
そんな時におすすめしたいのが、リサイクルのリネンからつくる〈Re.nen〉です。
質感が良く、繰り返しの洗濯にも耐える丈夫なつくり。厚手でありながらも、ほどよく光を取り入れるので、一枚でさらりと空間に馴染みます。
穏やかで優しいキャロットとグレーの組み合わせは、カラーを取り入れながらも派手になりすぎず、くつろぎやすい空間に。
ミントとホワイトの組み合わせは、夏を感じるすっきりと爽やかな印象に。
カーテンとは異なり、カラーの組み合わせ次第で、雰囲気を自由に変えられるのが〈14-23〉の特徴です。さらに〈Re.nen〉は展開する8色すべてに同色のネイビーでメローロックをかけているので、どんな組み合わせも浮くことなく空間に寄り添います。
厚手の〈Re.nen〉は、光は通しますが透けないため、夜でも安心して視線を気にせずリビングでの時間を楽しめます。
これまで約200軒の家づくりに関わってきたという井手さん。もともとは普通の専業主婦でしたが、自宅のデザインを手がけたことをきっかけに、思いがけず建築デザイナーとしてのキャリアがスタートしました。
「結婚して最初に購入した建売の新古住宅は、間取りをリフォームしてもなかなか居心地のいい空間にならず、数年で手放しました。それを資金に購入した2軒目の家はセミオーダーで、前回より暮らしやすくなったものの、新築材に使われた化学物質が愛犬の体調悪化の原因となったので、再び転居を決めました。」
鵠沼エリアで購入した3軒目は、はじめて自分でデザインした住まいでした。漆喰の壁や、無垢のパイン材の床など、当時はまだ珍しかった自然素材を使った家は、口コミで広がり、「うちもこういう家を建てたいんだけど」と、ご近所さんの相談にのるうちに、デザインを請け負うようになっていったそう。そして35歳の時、大工をしていた当時の夫と、注文住宅を手がける「パパスホーム」を起業しました。
その後、オフィスを兼ねた住まいとは別にのんびり過ごせる場所をつくろうと、箱根にスペイン風の別荘を建てたり。カフェの運営をきっかけに購入した古民家をリノベーションしながら暮らしてみたり。葉山の海を見渡せる一等地に家を建てたこともありました。
ライフステージにあわせて住み替えながら、精力的に仕事を続けてきた井手さんでしたが、52歳で会社を人に譲り、セミリタイア。7軒目である現在の住まいが完成すると、持っていた家はすべて手放し、老後も安心して過ごせる、穏やかな暮らしを手に入れました。
玄関から仕切りがなく、開放的に広がるダイニング・キッチン・リビング。もし、ほどよく暮らしのシーンを切り替えたい時は、薄手の布を一枚垂らすことで、圧迫感なく空間を分けることができます。
パリの空気感を持った〈MERCI〉は、洗練されたナチュラルの色味と素朴で優しいブラックが心地よいアクセントに。タテ方向のストライプは、天井を高く感じさせ、空間に広がりを持たせる効果があります。
フランスのアンティークを愛用する井手さんのつくる空間にも、さりげなく馴染みます。
犬1匹、猫1匹と暮らす井手さん。彼らが自由に寝室を行き来できるように、 寝室の扉は開け放していることが多いそう。扉の代わりに布を取り入れれば、ちいさな家族たちの行く手を阻むこともありません。
おすすめするのは〈TOSS〉のネイビー。安定感のあるカラーを迎え、心安らぐ空間をつくります。
寝室のクローゼットに活用するのは同じく〈TOSS〉のピーチ。生活感をほどよく消し、お部屋のアクセントとしてもおすすめです。
玄関につかう回転扉はヨーロッパでみた景色を参考にしたそう。鮮やかなタイルはモロッコで購入しモザイク調にデザイン。リビングにある存在感のある柱のオブジェは、国内で購入したインドのもの。
多い時には年2~3回は海外旅行へ出かけていたという井手さん。旅先で出会った記憶に残る風景を、長年培った経験とセンスでインテリアへ落とし込んでいます。
「直感で行動する性格なので、ピンときたら買うし、いくら探しても心が動くものがなければ自作することもあります。」
リビングのソファはお手製で、無印のベッドフレームにクッションを並べ、カバーはリネンの生地を買って自ら縫製したのだとか。「洗濯しやすく、古くなったらまた縫いなおせばいい。犬や猫と暮らすうえで、ダメージを気にせず使えるのもポイントです。」
「最近は和のテイストの空間づくりが気になっています。」
腰を据えた暮らしを送りながらも、家づくりの探求は続く。気になる部分は改修し、心ときめくものと出会い、時には手放しながら、暮らしのテーマを更新していきます。