森をひらく。未来へつながる家づくり。
ある時は、光を取り込む窓辺に。
ある時は、食卓を華やかに彩るテーブルに。
ある時は、風合いの良さを肌で感じるベッドリネンに。
使う場所や⽤途によって、その布の表情はがらりと変わる。
さまざまな⼈びとの暮らしから、〈14-23〉がある⾵景をお届けします。
その住まいは、森のなかにありました。木の温もりと、コンクリートの静けさ。印象が異なる2棟の建物が、プロダクトデザイナーである松岡智之さんと、「SyuRo」というデザインブランドを営む宇南山加子さんが暮らしを提案する、住居兼ギャラリーです。2023年、東京から長野県御代田町に移住。二人は自然の営みの真ん中に生活を置き、無駄なくエネルギーが循環する暮らしを叶えました。
空間を仕切る道具として、日常的に布を多用する住まいに「14-23」を持ち込んでみたら。柔らかな風が巡る空間の、新たな一面を引き出します。
「この辺りは、もともと100本近くのカラマツで覆われていました。それを伐採し、自分たちで整地しながら、家を迎えました。」と、二人は話します。
標高1000メートルの地にある、800坪の土地を購入したのは2019年のこと。東京に暮らしながら、週末には森へ通い、自分たちで4年半かけて、森をひらき、庭や小屋、池までつくってしまった。
「目指したのは循環型の暮らし。風や水、太陽がもつエネルギーを有効活用して、生活を営んでいます。例えば、太陽光パネルでエネルギーを確保し、家全体に光が巡るように設計。雨水は池に溜めて、畑仕事に活用しています。料理や飲み水には湧水を使っています。川を作り、水を循環させることで、浄水作用のあるバイオジオフィルターを作っていて、生活排水と雨水を循環の仕組みに取り込むようにしています。」(宇南山さん)
畑ではトマトやじゃがいも、空芯菜やクレソンなどハーブも育つ。食器の洗い物や、トイレ、お風呂でつかった水が浄化槽で分解されて、川へ流れる。きれいな水は畑の食物を潤し、おいしい食物となって、再び暮らしへ戻ってくる。
エネルギーについて考えるようになったきっかけは、10年前。宇南山さんがまだ幼かった息子と、北海道へ遊びに行った時のことでした。
「北海道で暮らす友人に連れられて、訪ねた場所で、部屋の真ん中に大きな焼却炉を兼ねたコンロがあって、ゴミを燃やす時の熱を使って、3食食事を作ると、その熱が家中を巡って、部屋を温めたのちに、お風呂の給湯となって溜められていて。なんて無駄がないんだ!と感動しました。」(宇南山さん)
それから、エネルギーの勉強をはじめ、ヨーロッパの住宅や、パーマカルチャーについても学ぶようになったという宇南山さん。自然の営みのなかで生まれるエネルギーを、効率的に暮らしへ取り入れることが豊かさにつながると確信しました。
松岡さんと宇南山さんは共通の趣味である釣りをするなかで、海や川、湖を求めて、日本各地へ出かけるようになりました。その過程で、自然豊かな場所で暮らすことへの憧れは強くなっていったそうです。
二人が思い描いた移住地は、近くに水辺があり、標高が高く美しい樹々に囲まれた森のなか。山梨や静岡、栃木など都内からもアクセスがいい場所を中心に、候補はあがっていきましたが、長野は当初そのなかにはありませんでした。しかし、偶然仕事で訪れたこの街の景色に魅了されたそう。
「100年は暮らせる家です。デンマークの住宅を参考につくった家は、断熱性や気密性が高く、一年中快適な温度で暮らせるので健康にもいい。エネルギーを浪費しない分、環境にもいい。」と、松岡さんは話します。
冷暖房に使うのはラジエーターのみ。中に冷水や温水を流すことで、室内の温度を一定に保つことができるそう。冬は外が氷点下でも、家のなかはTシャツでいられるほど暖かい。
「日本の住宅は、断熱性能が低く、冬の寒さを我慢したり、夏はエアコンをガンガンに付けたりすることが多く見られますが、この家へきてからは、エネルギー負荷を抑え、生活することができ、気密性、断熱性の大切さを改めて感じています。」(宇南山さん)
「この家では、空気を循環させるための機能として布を選んでいる部分もあるけど、それ以上にインテリアとしての意味合いが強いです」と、松岡さん。
布を間仕切りに使うことで、必要に応じて空間をぐっと広げることができる。時には、玄関と生活空間との境界になったり、プライベート空間をつくることにも役立ちます。
柔軟に空間を分ける布は、襖の代わりのような存在であると二人は話します。
布で仕切ることを前提につくられた1階のワンルームへ「14-23」を迎えてみました。
玄関前とダイニングの間には、リネンとポリエステルの絶妙なバランスでできた〈TOSS〉を。4色を組み合わせた大胆なスタイルですが、軽やかなカラーを取り入れることで、まとまりやすくなります。
薄手で透け感のある素材感は、空間を仕切るのにちょうどいい。季節にあわせて、カラーを入れ替えれば、気軽に模様替えを楽しめます。
リビングのカーテンとして迎えるのは、日本が誇るリサイクルの技術で生まれた繊維を活用した〈PURE〉のホワイト。ほのかにきらめく銀糸のラインが、窓辺を飾ります。光は感じながら、視界を遮る厚手の布は、寝室などプライベート空間にも取り入れやすい一枚です。
リビングの仕切りには〈Ahaha〉を、アイボリーとグレーのセパレートデザインが特徴的で、上下で自由に付け替えて、空間に遊び心を取り入れます。
端材や残糸を集めて生まれたリサイクル糸の優しい質感は、シーンを選ばず暮らしに寄り添います。
二人はそれぞれ店舗の空間づくりの経験はあったけれど、住宅の設計は初めて。どのように家づくりを進めていったのでしょうか?
「エネルギーの循環がテーマだったので、光の入り方を計算しながら設計していきました。二人とも朝風呂に入るので、お風呂と寝室は朝日が感じられる東向きに、キッチンは天窓から穏やかな光が差し込み、午後はショップの空間に光が巡るように。光を基準に考えると、おのずと間取りが決まっていきました。」(宇南山さん)
また、ショップの外壁や自宅のテラスには、この土地で伐採されたカラマツを採用。無駄なく、資源を取り入れています。
「ショップは、外観から木の温もりを感じられる分、中はクールに仕上げました。反対に住まいは、外壁が佐官で、室内にふんだんに木材を取り入れています。寺院や教会を参考に、陰影のバランスを大切にしながら、引き算の美意識を持ち込んだ空間づくりを意識しています。」(宇南山さん)
屋根のある半屋外空間として、住宅とショップの間に設けられたポーチは、テーブルや椅子など、松岡さんがデザインした家具が並び、仕事と生活の気分を切り替えるスイッチにもなっているそう。
住居と連なるように設計したギャラリーショップ「SAMNICON (サムニコン)」では、松岡さんが手がける家具と宇南山さんが営むインテリア用品を中心に展開しています。
またギャラリーやPOPUPレストラン、レンタルスペースとしても活用。自然とのつながりを、五感で感じられるような場所となっています。
お店の間仕切りには、美しいストライプ柄の〈MERCI〉を選びました。
洗練されたナチュラル色のベースと、素朴で優しいブラックの縦のラインは、コンクリートの素材感とも相性がよくシックな空間を演出します。
心地いい空間づくりを叶えるため、収納や生活導線にもこだわりがありました。
「玄関から入って左側は、キッチンや収納、水回りを配置した “動くスペース”。反対に右側は、ダイニングテーブルやソファを置いた”寛ぐスペース”として、生活空間を分けています。とくに器や調理器具が多いですが、すべてのサイズに合わせて収納を設計したので、すごく快適です。」(宇南山さん)
とくに寛ぐスペースには、物の情報量は最低限に。見える場所には、オブジェとして楽しめるものを選び、空間全体をつくっています。
空間の余白を感じられるよう、玄関側からキッチンへ通り抜けられる仕様のパントリーには、控えめな光沢が美しい〈THIME〉を迎えました。
目隠しとして使えば、よりすっきりとした印象に。ナチュラルな素材感は、木を基調としたキッチンにも馴染みます。
2階のゲストルームに続く階段の前には、天然素材のシルクとリネンから生まれた〈KINU〉を。さりげないミントのメローステッチがアクセント。
部屋の入り口や廊下にかけることで、冷気を遮り冬でも暖かく過ごせます。やわらかで肌触りのいい布は、ベッドリネンとしてもおすすめです。
二人がつくった空間には、松岡さんのデザインした家具がよく似合う。なかには、この家のためにつくった家具もあるそうです。
「ダイニングのテーブルは、もとは長方形のデザインでした。この家には曲線を持つ家具の方がフィットしそうと思い、メーカーにオーバルデザインの商品を追加で提案したんです。ここで使うのは、その試作品としてつくったもの。家族や友人など、人が集まることも多いので、みんなで囲めるデザインを意識しました。」(松岡さん)
ソファは「SAMNICON」オリジナルとしてデザインしたもの。要素を減らしたシンプルなデザインのソファは、ベッドで使われるクッション構成を採用したことで、まどろむほどリラックスできる座り心地を実現しました。
今回、さまざまな布を空間の仕切りとして迎えましたが、空間の印象はどのように変わったのでしょうか。
「布がちがうだけで、空間が若返ったような感じがしました。自分のつくるデザインのなかに、他のエッセンスが入ることで、思いがけないアイディアが形になる。その化学反応が楽しいですね。」(松岡さん)
「いわゆるSDGs的な目線は当たり前に持っていて、それを付加価値として押し付けなくても、そのものが、十分に魅力を感じさせてくれる商品だなと思いました。まわりの空気も変わるような、オブジェのようなモノ作りを目指すSyuRoですが、14-23も共通するものがあると感じました。」(宇南山さん)
布が揺れ、風を感じる。窓からの木漏れ日が、時間と共に移動していく。自然の循環のなかで、生活は絶えず営まれていく。
14-23 TOSS (PEH/GR/WT/MNT)
リネンとポリエステルの糸をバランスよく混ぜ合わせ、軽くて心地よい光を取り込むしなやかなテキスタイル。
10,800円(税込11,880円)
ONLINE SHOP