余白を残した、土間のある家。
ある時は、光を取り込む窓辺に。
ある時は、食卓を華やかに彩るテーブルに。
ある時は、風合いの良さを肌で感じるベッドリネンに。
使う場所や⽤途によって、その布の表情はがらりと変わる。
さまざまな⼈びとの暮らしから、〈14-23〉がある⾵景をお届けします。
長野県上田市にて、ふたりの娘とともに暮らす中村和義さん・彩絵さんご夫婦。築年数を重ねた祖母の家を建て替え、コンパクトな住まいでの新しい暮らしがはじまったのは、昨年6月のことでした。
余白を残したシンプルな空間は、素材の心地よさを大切に、長く愛せる家づくりを目指しました。庭に面した土間では、畑仕事のあとにそのまま腰を下ろして、外と内の“あいだ”を楽しむように流れる、暮らしのリズム。
住まいを彩るように迎えた〈14-23〉の明るいカラーが、やわらかな風にのって春の陽気を運びます。
「ここはもともと、私の祖母の家でした。祖母が住まなくなってから数年空き家だったんですが、そのあと上田で就職する縁があって、ひとり暮らしを始めました。」
その後、和義さんと出会い結婚。ふたりの娘に恵まれ、家族で暮らすようになりました。しかし、古い家は隙間風もひどく、快適な暮らしとはほど遠い生活でした。
「冬の間は家の中が寒過ぎて、休日も外で過ごすことが多かったです。ただ、古いものは好きだったし、自分たちでつくる空間にも憧れていたので、いつかリノベーションして暮らせたらと思っていました。
しかし、その広さからコストもかかることがわかりリノベーションは断念。建築士の野々山修一さんに依頼し、場所はそのままコンパクトな住まいに建て替えることを決めました。
家づくりで大切にしたのは、「奇抜さ」ではなく、「飽きずに長く暮らせる」こと。極力「ほんもの」を使い、住まい手の変化とともに、時間の中で育てていく家を目指しました。
「野々山さんが設計した自邸に初めて伺った時に、感覚的に惹かれるものがありました。リノベーションしながら暮らす、古いものを生かした空間は、すごく素敵で、いいものを長く使う価値観に共感できたし、こういう家にしたいと感じました。」(彩絵さん)
そうして生まれたこの家は、派手さはないけれど使う素材や細やかなディテールにこだわり、空気の流れを残す設計に。将来の家族構成の変化も見越し、構えすぎず、柔軟に対応できるつくりにしました。
「小さな家だからこそ、空間ごとにメリハリをつけ、天井高に緩急をつけてもらいました。土間は床を下げて、天井が高く感じられるように。リビングは吹き抜けで開放的に。そして、ダイニングは可能な限り天井を低く設定し、落ち着ける場に設計してもらいました。」(和義さん)
新居への引っ越しにあたって、新たに購入した家具は、ダイニングセットのみ。野々山さんから「華奢な家具より、この家の雰囲気に合う」と勧められ、大阪の〈TRUCK FURNITURE〉まで足を運び、選んできたそう。古道具とも相性のいい、長く使える洗練されたデザインは、ふたりが描く空間に、ぴったりフィットしています。
本が好きなふたりにとって、家づくりの初期段階から「本棚」は必要不可欠な存在でした。
「ラワン材をベースに家づくりを進めるなか、ちょうど母が昔使っていた本棚が同じ素材だったため、空間に取り入れながら、さらにそれを活かした間仕切りを作っていただきました。」(彩絵さん)
限られた空間のなかでも、本を中心に据えた暮らしを叶えるために、新しくつくった本棚をダイニングに迎えました。
本棚につかわれるラワン材は、住まいのいたるところにも活用され、空間に統一感を生み出しています。
新築でも、どこかに古いものを取り入れたいという二人の要望から、洗面所とダイニングの間仕切りには、祖母の家で使われていたガラス扉を活用しています。
「祖母の家で使われていたガラス扉を、“再利用しませんか?”と提案してもらったときは、本当にうれしかったです。」と二人は振り返ります。
懐かしい素材が、新しい空間の中でふたたび息を吹き込まれるようにして活かされています。
建築士の野々山さんからサプライズで贈られた寝室に飾る額縁も、以前の家の素材からつくったものだそう。
かねてからの要望として、ダイニングから庭へつながる窓の前には、広い土間を取り入れました。
「外と中の“あいだ”にある感じがいいんですよね。ちょっと腰かけたり、アウトドアの道具を置いたり、お客さんも気軽に休憩できる場所としてすごく気に入っています。」(和義さん)
靴を脱がずにひと息つける場所は、畑仕事のあとの休憩にも、子どもが汚れて帰ってきたときにも便利で、暮らしにとっての“クッション”のような役割を果たしています。
土間のある暮らしは、彩絵さんにとっても自然な選択だったそう。りんご農家を営む実家にも土間があり、外からゆるやかに住まいにつながる暮らしは、幼少期から当たり前の光景でした。
週末には畑を耕し、庭でバーベキューを楽しむこともある中村家。ときには土間にピクニックシートを広げ、子どもたちの友達と一緒にごはんを食べることも。外と内の境界があいまいになるこの場所は、暮らしにちょっとした自由さをもたらしてくれます。
「家にいる時間を快適なものにしたかったので、断熱のことはかなり相談しました。」と話す和義さん。開放感を感じながら、足元からじんわりとぬくもりを感じられる空間が整えられました。
さらに、既製品のサッシではなく、断熱性もいい特注の木製サッシを作成することで、土間と段差のできない大開口の窓を実現できたそう。
普段は、木製ブラインドを使用する土間から庭へとつながる窓辺に、今回新たな試みとして、透け感のある〈THIME〉をかけました。
木の素材感やモルタルの質感にも、やさしくなじむ一枚です。
窓を開け放てば、外からの光や風がふわりと入り、視覚的にもその心地よさを味わうことができます。
「空間をすっきり見せたくて、悩んだ末に選んだブラインドでしたが、今回〈14-23〉をかけてみて、やっぱり布もいいなと思いました。風に揺れる姿が美しくて、空間がやわらかくなるのを感じました。」(彩絵さん)
「実はテキスタイルにはずっと興味がありました。」と、彩絵さん。
けれど、暮らしの中でどう取り入れていいのかわからず、もどかしさを抱えていたそう。
唯一取り入れていたのは、寝室の収納の目隠しとして。だからこそ、今回の撮影でさまざまな場所に〈14-23〉をスタイリングできたことは、新たな発見につながったそうです。
「布って、“空間を仕切る”というより、“やさしく整える”存在だなと思いました。洗濯機の目隠しにも使えるし、将来、子ども部屋を区切るときにも活躍しそうです。」(彩絵さん)
玄関や窓辺、リビングなど、空間のいろいろな場所にそっと布が入り込むことで、住まいを巡る風を視覚的にも感じられるよう。
「視線はやわらげてくれるけど、光はちゃんと通す。空気も遮らないんですよね。断熱を考えた家との相性の良さも感じました。」(和義さん)
やわらかな布の存在が、例えばこんな風に、住まいのリズムをやさしく整えます。
ダイニングからも視界に入る玄関には、鮮やかで爽やかな〈TOSS〉のライムをご提案しました。
帰宅して最初に目に入る場所だからこそ、印象的なカラーを選ぶことで、疲れた心もふっと軽くなります。
マルチクロスで空間をゆるやかに仕切ることで、自転車など大きな荷物の出し入れもスムーズに。暮らしの中に軽やかに馴染んでくれます。
「アクセントになるカラーが入ると、空間が一気に華やかになりますね。洗濯できる素材なので、汚れも気にせず、安心感があります。」(彩絵さん)
つっぱり棒〈Tension Rod〉と、〈ディスプレイリング〉を組み合わせれば、レールのない場所にも簡単に布を取り入れられます。ブラックのカラーは、カラフルな布との相性もよく、空間をさりげなく引き締めてくれます。
ダイニングとリビングをゆるやかに仕切るのは、〈TOSS〉のグレー。 ほんのりと透ける生地が、空間をやさしく区切りながら、ほどよいぬけ感をつくります。
取り付けには、こちらも機能的でスタイリッシュな〈Tension Rod〉を使用。 ホワイトを選べば、壁や木のインテリアにもすっと馴染み、見た目にも軽やかです。
丈夫でしなやかな〈TOSS〉は、圧迫感なく適度な存在感を持ちます。
家族の気配を感じつつ、ちょっとしたパーソナルスペースをつくりたいときにもおすすめ。
落ち着いたグレーの色味は、リビングやダイニングでそれぞれ過ごす時間をやさしく包み、静かなひとときを演出します。
現在はゲストルームとして使っている一室は、将来のこども部屋に。 階段前に設置した備え付けのデスクは、現在は、在宅での仕事も多い彩絵さんの作業スペースとしても活躍。
扉の代わりに〈14-23〉を吊るせば、軽やかに空間を区切ることができ、開け閉めの煩わしさもありません。ふわりと揺れる布が、やわらかく暮らしのリズムを整えてくれます。
上下で異なる表情を持つ〈Ufufu〉は、ホワイト部分は光を明るく取り入れ、グレー部分は視線や紫外線をやさしく遮ります。 2種類の糸を組み合わせているため、吊るす向きを変えることで透け感を調整できるのも魅力です。
2階奥に設けられた寝室には、オープン収納の目隠しとして〈Re.nen〉のナチュラルをお使いいただいています。
今回は同じ生地でベッドリネンもコーディネート。天然素材のリネンならではのやわらかな質感が、肌にやさしく触れてくれます。
窓辺のカーテンとしてだけでなく、ベッドや収納、間仕切りとしても活躍する〈14-23〉。 毎日の暮らしにそっと寄り添う、頼もしいマルチクロスです。
コンパクトな住まいながら、それぞれが自分の時間をもてる居場所づくりにもこだわりました。
子どもたちが起き出す前の早朝は、夫婦ふたりが自分のリズムを整えるひとときです。
彩絵さんは、朝少し早起きをして、お風呂にゆったりと浸かりながら読書をする時間が日課。和義さんは、音楽を流しながらコーヒーを淹れ、土間に置いた椅子で静かに読書を楽しんでいるそう。
新居に暮らすまでは、家のなかでゆっくりとした時間を過ごすことが少なかったというふたり。暮らしの中に、“自分のペース”を取り戻す場所があることが、この家の魅力のひとつです。
日々のリズムや季節の変化に寄り添いながら、家族それぞれの「好きな過ごし方」を支えてくれる。これから少しずつ整えられていく余白が、この住まいにはたっぷりと残されています。