価値を更新し続ける、眺めのいい家
ある時は、光を取り込む窓辺に。
ある時は、食卓を華やかに彩るテーブルに。
ある時は、風合いの良さを肌で感じるベッドリネンに。
使う場所や⽤途によって、その布の表情はがらりと変わる。
さまざまな⼈びとの暮らしから、〈14-23〉がある⾵景をお届けします。
長野県東御市。義見春野さん、友美さんご夫婦は、今年4月、南アルプスの絶景が広がる場所に、眺めのいい家を建てました。義見さん自らが設計したこの家は、完成と共に売りに出しています。家具を選び、庭を作り、布を垂らす。真っ白な空間に少しずつ自分たちの色を取り入れていくこの瞬間も、この家の価値は更新され続けています。〈14-23〉を接点に、理想を体現する二人の暮らしをうかがいました。
現在、北欧の家具や雑貨を扱う会社「haluta(ハルタ)」で住宅設計を手がける義見さん。東京のリノベーション会社での仕事を経て、長野へ移住したのは今から3年ほど前のこと。
「リノベーションの仕事は楽しかったですが、マンションの間取りによってプランが固定されてしまうので、不自由さも感じていました。他業種で建築も関われるくらいの仕事がないかなと探し、見つけたのがハルタでした。妻も自然が多いところで暮らしたいとのことで、転職して長野へ引っ越しました。」
ハルタへの就職の条件にデンマークへの渡航経験が必要だったことから、夫婦ではじめて訪れたデンマーク。寒い冬でも暖かく快適な室内、外を歩けば美しい街並みが広がる風景に、感動を覚えたと話します。
「デンマークの場合は、セントラルヒーティングを使って、街全体にお湯を巡らせ、各家庭に設置されたパネルヒーターで室内を暖めています。ぼくらが泊まった古いホテルも断熱工事がしっかり施されていて、どの部屋にいてもTシャツ一枚で過ごせるくらい暖かい。それに、窓の断熱性能も高いので、カーテン自体に断熱や遮光などの機能性を求めないからか、窓辺にカーテンをつけない家庭が多くて、普通の住宅でも、窓辺に小物や花を置いて、ショーウィンドウみたいに飾っているので、街を歩くだけで楽しかったのを覚えています。」
就職後、北欧の住宅にならった家づくりを学んでいくうちに、彼らの環境に配慮しつつも快適な暮らしは、自分たちの生活にも反映されていきました。そして、この春、ついに自ら手がけた家が完成。
家全体を包み込むように断熱された家では、エアコンやストーブがなくても、一年中、快適に過ごすことができるそう。冷暖房は、除湿型のパネルヒーターのみ。中に冷水や温水を流すことで、室内の温度を一定に保ち、重量感のある玄関扉を閉めれば、外気から音まで遮断され、家の中だけ別世界のように心地よい静寂が続く。光を取り込む大きな窓には、信州の四季が映し出されます。
「デザインの参考にしたのは、デンマークの建築家、フィン・ユールの自邸。こじんまりしたワンルームで、リビンクだけでなく、家のいたるところに滞在できる風景に憧れ、同じように玄関横にグリーンやソファを置いて、ちょっとした来客時にもくつろげるスペースを設けました。」
撮影当日にちょうど届いた、本物の押し花を生地に使ったクッションは、同じ東御市にあるPh.D.(フッド)のオリジナル。
「デンマークの建築家はこんな風に自邸をよく作るんですけど、日本の建築家って不動産の問題もあって、マンション住まいが多いんです。でも、自分の暮らす家はやっぱり自分で作りたかった。それでいて、日本の住宅の価値観を変えられたらもっといいなと思って、住み始めた瞬間から、家を建てた価格以上で売りに出すことにしました。」
「日本の不動産の価値観でいうと、よっぽど有名な建築家でない限り、どれだけこだわって建てた家でも20年後には0円になってしまう。つまり、建築家に頼まず、既成のデザインの家と最終的には同じ価値になるんです。いつか価値がなくなるものにお金をかけられる人は当然少ないので、安価なプラスチックを使った1000~2000万の家が今どんどん増えてきています。このままでは近い将来、空き家問題どころではなく、日本中プラスチック製の家で溢れてしまう。この家はそんな未来への反発でもあります。」
日本と違い、デンマークの住宅は、買った時より売る時の方が家の価格が高くなることは珍しくありません。売ることを前提に暮らすので、断熱はもちろん耐震性にも優れた家を建て、さらに住みながら手をかけ快適な環境を整えていく。そうすることで、家に付加価値が生まれ、より高値で売ることができるそう。
「国民全員で、よりよい家を作ろうとするので、北欧の街並みはすごく綺麗。この家でも、庭を整えたり、ウッドデッキを作ったり、カーテンレールをつけたり、買った当時から少しずつ手を加えています。日本の不動産ルールに照らし合わせれば、これらは無価値なんだけど、そういう価値観を変えていきたい。もちろんこの家はすごく気に入っているから、まだ売れてほしくないですけどね(笑)」
「〈14-23〉を暮らしのなかで体験いただけませんか。」
そんなメールを送ったところ、届いたお返事が「ちょうど購入を検討していたところでした、こちらとしては願ったり叶ったりです!」というものでした。うれしい偶然から、実現したこの撮影。寝室へ通じるウォークインクローゼットの間仕切りとして、布を探していたという義見さんが選んだのは、リサイクル生地のシリーズ「Re.nen」でした。
「白を基調にしたシンプルな空間に、差し色になるような明るい色に惹かれました。サーモンピンクにも近いオレンジは、ぼくの好きな色。ネイビーのステッチがアクセントになっているのも気に入りました。実際に付けてみると、厚すぎないやわらかな生地感もちょうどいいです。」
穏やかで清潔な印象を与える白い壁やタイルの床に、鮮やかに寄り添う布。マグネットタッセルでラフにまとめて、空間と空間をゆるやかにつなぎます。
家に対して布をきちんと選ぶのは今回が初めてという義見さん。もともとは布に対して苦手意識を持っていたと話します。
「東京のアパート暮らしの時から、カーテンをしない生活を送っていました。賃貸だと、引っ越すたびに窓のサイズが変わるので選びにくく、せっかく買っても家具や空間が違えば途端に合わなくなってしまう。家を空ける日中、カーテンを閉め切ったまま、淀んだ空気が漂う感じもあまり得意じゃなかった。でも、〈14-23〉みたいに一枚の布なら、窓のサイズに合わせて折って使えるし、ほどよく透ける薄手の布なら、光を遮らない。窓辺に限らず、今回みたいな仕切りやベッドルームなど、いろんな使い方ができるのがおもしろいですよね。」
キッチンとリビングの間仕切りとして使用したのは、ツートンカラーの「Ufufu」。透け感の異なる2種類の生地を組み合わせた布は、上下を入れ替えるだけで雰囲気ががらりと変わります。光を取り入れつつ、視界を遮りたい時にも便利な1枚。
デンマークの住宅から学ぶことは多くありますが、日本建築も世界から長年評価されてきた歴史があります。
「柱や梁など直線的な材料で空間を作る構造は風通しが良く、湿気の多い日本の夏を快適に過ごすことができました。檜や松など材にもこだわり、自然環境を上手に取り入れながら暮らす、知恵と工夫が詰まっていたんです。現在は、安価な杉材やプラスチックで家を建て、日本建築の良さはすっかり失われてしまった。環境の変化と共に世界的にスタンダードになりつつある断熱も、日本は大きく遅れをとっています。」
義見さんの家では、日本で手に入りやすい、石油系の断熱材は使わず、デンマークの天然石素材の断熱材を使用。土に還る素材は、デンマークでは主流だそう。北欧の最新技術を取り入れながら、本来の日本建築が大切にしていた、自然のなかで心地よく循環する暮らしを実践しています。
「日本では、家は一生に一度の買い物とよく言いますが、デンマーク人は、生涯に何度も家を買うらしいんです」と義見さんは話します。
「持ち家率が高いデンマークでは、小さい家からスタートして、年齢と共に給料があがっていくと、家を売ったお金でより大きな家を買うんです。“住宅は3回建ててやっと納得ができるものが作れる”というのは、昔から日本でも言われているけど、それを実践できる人ってほとんどいないですよね。仕事でお客さんの家を作っていても、概ね気に入ってくれるけど、もっとこうしたらよかったという声は必ず聞きます。本人も住んでみて初めて気づく部分がどうしてもあるんです。だから自分も3回くらいは家を建てたいと思っています。次は海の近くに家を作るのもいいな。」
住みながらにして売り出すこの家は、時を重ねるたび、価値を更新し続ける。いつか、思い出とともに、暮らしを引き継ぐその時まで。
14-23 Re.nen (CRT)
リネンの生地の製造過程でどうしても出る布の端材部分や糸の残りを集め、リサイクル技術を活かし再活用した植物を原料にしない新しい発想の質感が良く丈夫なリネン100%のスペインならではの厚手の布です。
10,800円(税込11,880円)
ONLINE SHOP14-23 Ufufu
よく透ける部分(光や風、気を取込む)と、ほとんど透けない部分(視線や紫外線を遮る)の2つの要素が詰まったテキスタイル。
12,800円(税込14,080円)
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