小さくても、心地よく。家族で暮らす軽やかな住まい。
ある時は、光を取り込む窓辺に。
ある時は、食卓を華やかに彩るテーブルに。
ある時は、風合いの良さを肌で感じるベッドリネンに。
使う場所や⽤途によって、その布の表情はがらりと変わる。
さまざまな⼈びとの暮らしから、〈14-23〉がある⾵景をお届けします。
築50年の一軒家を、長女の出産に合わせてリノベーションした有福さん夫妻。限られたスペースを活用するべく、工夫の詰まったコンパクトな空間に、色とりどりの布を取り入れてみたら、住まいの新たな一面が見えてきました。
渋谷区の一角に位置する、人気の住宅街。窓を開ければ、ご近所さんたちの生活の気配を感じる、賑やかな環境に有福邸はあります。英幸さんと香織さんがこの家に暮らし始めたのは、今から約20年前のこと。
「大学を出てすぐに結婚した私たちは、憧れの犬との生活のために、小さな古家を購入しました。当時すでに築30年くらい。前の持ち主は、アート関係の仕事をしていたようで、特殊な間取りで、過ごして楽しい家づくりを感じました。ただ、一口コンロの小さなキッチンや、陽の入らない畳張りのダイニングなど、快適とは言えない部分も多かったです(笑)お互い仕事が忙しくて生活を見直す余裕がなかった私たちは、とくに手を加えることなく、そのまま10年暮らしました。(香織さん)」
楽しくも生活には少々難のあった古家は、長女の生まれるタイミングを機にフルリノベーションを決意。家族が増えることもあり、限られたスペースをいかに有効活用するかが、大きなテーマでした。
「まず、1日の大半を過ごすキッチンとダイニングは日当たりのいい2階へ移し、1階はお風呂と寝室に。家具の置けるスペースも限られているので、ダイニングキッチンや、階段下には、空間を有効活用した収納を設けました。(英幸さん)」
もともとあった窓を無くし、ダイニングに新たに設けたのは、引き戸付きの本棚。壁と統一したカラーで、圧迫感なく暮らしに馴染んでいます。
「調理道具から食器までたっぷり収納できるキッチンは、既製品だと気に入るものがなかったので、大工さんにお願いしました。シンプルな作りで、機能も最低限だけど、パリのキッチンを思わせる水色のカラーと、温かみのある質感が気に入っています。(香織さん)」
水色のキッチンが主役のワンルーム。爽やかなカラーに掛け合わせるように、一階へ続く階段との仕切りに取り入れたのは、春らしい2枚の布。普段、インテリアとしての布は、カーテンくらいしか馴染みがないという有福さんご夫妻。実際に布を暮らしに迎え入れてみて、その印象はどう変わったのでしょう。
「コンパクトな家なので、家具や物の定位置が決まってしまって、模様替えをすることは諦めていました。ここ数年は、変わらない景色のなかで生活していたので、布を垂らすだけで我が家の新しい一面を見られたのがうれしいです。自分では思いつかないような色の組み合わせも、新鮮な発見でした。(香織さん)」
鮮やかなライムカラーの〈TOSS〉は、リネンとポリエステルの糸をバランスよく混ぜ合わせ、軽くて心地よい光を取り込むしなやかな薄手の布。空間に圧迫感を感じさせない、ほどよい透け感が、リラックスした空間を演出します。
開放感を感じさせるガラス張りの仕切りには、心地よい木や葉を木漏れ日としてデザインした〈KOMOREBI〉が掛かります。都会で暮らす子供たちに、自然と触れ合う時間を過ごさせたいと、定期的にキャンプへいくという有福さんご家族。階段から見上げるたびに、視界に触れる木漏れ日は、森で過ごすのびのびとした時間を思い起こさせてくれそうです。
印象的な1階の床のタイルは、以前のオーナー夫婦のこだわり。玄関から突き当たりの洗面台まで続くタイル張りの床に、「冬場はかなり冷えるんですけどね」と困ったように笑いながらも、愛着のある視線を向ける香織さん。増築した玄関部分には、白いタイルを継ぎ足しました。扉を開けるたび、ブルーとホワイトの美しいコントラストが出迎えます。
シンプルなタイルを生かすように、玄関を鮮やかに彩るのは、台風のあとの空を写した〈SORA〉。外と内を緩やかに繋ぐ1枚に。
ふたりで暮らしていた頃は、それぞれの仕事が忙しく、家には寝に帰るような日々。平日に夫婦が揃って食事をすることすらほとんどなかったそう。しかし、2人の娘に恵まれて、それぞれの働き方に変化が生まれました。
「イベントでもらったチラシをきっかけに、偶然出会ったのが、『産後ドゥーラ』という仕事でした。産後ドゥーラとは『母親にも愛情とやさしさを』を使命として、産後間もない母親に寄り添い、支え、家事や育児をサポートする仕事です。(香織さん)」
もともと一日中、家にいられるくらい家事が大好きだという香織さん。お母さんとおしゃべりしながら大好きな赤ちゃんのお世話をし、家事をする仕事は、まさに天職でした。一方で、英幸さんも転職を機に、働きかたを改め、夜は家族が待つ家で過ごすようになりました。
「夕飯を食べ終わったら、二人ともだいたいこのダイニングテーブルで仕事をしています。私は訪問するお宅の献立を考えたり、夫はパソコンを開いて持ち帰った業務の続きをしたり。子供たちも同じ空間で、それぞれ本を読んだり、絵を描いたりして、自由に過ごしています。(香織さん)」
自宅を改装した際に、リビングダイニングに備え付けた2人分のデスクと本棚は、姉妹それぞれの学校の教材や趣味の道具が並びます。年齢や生活環境の変化に合わせて家具の買い替えが必要ないよう、長く使えるシンプルなデザインが暮らしを支えています。
ベーシックな色味を取り入れ、整然として落ち着いた印象のリビングダイニング。インテリアが固定されがちな窓辺に、〈14-23〉を取り入れてみると、途端に軽やかな雰囲気に。選んだのは〈Re.nen〉のミントとグレー。丈夫でしなやかなリサイクル生地のリネンが、やわらかく光を取り込みます。
梁を見せる開放的な天井に、ふわりと浮かぶ一羽のかもめは、いつか英幸さんがおもちゃ屋さんで購入したもの。それは、時々、クリスマスのモビールや、手作りのヒンメリに姿を代えて、室内を賑やかに飾ります。季節に合わせた小物で、空間を立体的に活用するのも、コンパクトな暮らしを楽しむ工夫のひとつ。
遊び心のある天井に、もうひとつアクセントを加えるなら〈LAMP SHADE THIME〉を。きらめく薄手の生地が、暮らしの灯りを上品に演出します。布製なので、使っている照明の上から乗せるだけで設置でき、不要な時には小さく折り畳める気軽さも魅力です。
窓辺と同じ〈Re.nen〉は、空間を仕切る時にも優秀な一枚。垂らした布の奥には、階段が続きます。「面積は増やせないけれど、部屋は増やしたい」。そんな難題のなか、二人が行き着いた正解がロフトでした。
「普段は一時的な荷物置きや、夫が休むスペースとして使っています。来客時の対応や、子供が小さいうちの遊び場としても役立っています。広いスペースではないですが、作ってよかったと思える場所です。(香織さん)」
家をぐるりと見渡せば、天然の木材や清潔感のあるタイル、空間に余裕をもたらすガラスなど、小さな暮らしのなかで、「素材感」がふんだんに感じられることに気が付きます。その理由は、英幸さんが持つモノへのこだわりにありました。
「大学を卒業して初めて就職したのが印刷会社でした。そこでは、壁紙や床材の印刷物のデザインを担当していて、木材や大理石の柄のコピーを作っていました。(英幸さん)」
「印刷物の柄」を生み出すために、元になった木や石は、同じ柄が世に出回らないようすべて破棄されてしまう。本物を捨ててまで、偽物を作り出すことに納得がいかなかった英幸さんは、その後、約2年で退職。当時の経験が、質感や風合いを大切にしたモノ選びにつながっていると話します。
「自然の風合いを生かしつつ、アクセントにもなるような〈14-23〉は、窓辺以外でも空間に溶け込むことに驚きました。既製のカーテンのように光を遮断しきらない、1枚の布という“程よさ”が、我が家にも合っているんだと思います。(英幸さん)」
身にまとう服、毎日触れるテーブル、座り慣れた椅子。小さな空間を最大限に活かし、体に馴染んだ心地よさが、日常を支える有福邸。暮らしの布は、そんな日々のスパイスとして、これからの家族の風景を彩ってくれるはず。