軽やかな住まいで探る、余白がもたらす自由。
ある時は、光を取り込む窓辺に。
ある時は、食卓を華やかに彩るテーブルに。
ある時は、風合いの良さを肌で感じるベッドリネンに。
使う場所や⽤途によって、その布の表情はがらりと変わる。
さまざまな⼈びとの暮らしから、〈14-23〉がある⾵景をお届けします。
山梨県北杜市白州にて、家具やプロダクトの製作を行うデザインユニット「アトリエヨクト」。古川潤さんと佐藤柚香さんご夫婦による、持ち運べることをキーワードにした、自由で軽やかなものづくりは、森のそばに構えた自分たちの住居にも、ふんだんに生かされています。シンプルな空間には、シンプルな布を。暮らしのスタイルによって形を変える〈14-23〉が、冬支度がはじまる住まいを鮮やかに彩ります。
2019年の終わり、約800坪の広大な土地に、念願の住まいは完成しました。生い茂る樹々は、季節にあわせてその姿を変え、敷地の隅には小川も流れます。誰もが羨むような美しい自然のなかにある家ですが、当初、二人はこの地に家を建てるつもりはなかったのだといいます。
2013年に留学先のスウェーデンから移住し、前の持ち主から機械もそのまま譲り受ける形で、構えたアトリエヨクトの工房。ツルや雑草が繁茂しゴミが放棄された荒れ果てた土地は、とても人が住めるような環境ではなく、家族は長年、近くの団地で暮らしていました。
「家を建てるための土地を、探していましたが、なかなかいい場所に巡り会えず。工房のまわりを少しずつ片付け、刈り入れていくと、だんだん光が入ってきたんです。」
ゴミや雑草で荒れた土地を整えていくと、明るく風通しのいい場所が現れました。住まいの可能性をふたりは、土地にテントを張って過ごし、ベストな場所を見つけると、そこに家族で暮らす家を建てました。
家具デザイン制作を担当する潤さんと、ヨクトのホームページやパッケージなどのデザインを担当する柚香さん。ふたりは、もともと大学の建築学科の同級生でした。卒業後、それぞれの道を歩んでいましたが、ある時、偶然の再会を果たします。
「当時、東京の働いていた設計事務所から独立したばかりの私は、縁あって古い長屋を借りて古道具屋を開くことになったんです。改装のため依頼した工務店で、たまたま大工として働いていたのが彼でした。」
その後、潤さんは大工を辞め、柚香さんの縁で仕入れた古材を使った、オーダー家具の製作をはじめます。しかし、古材の魅力に頼ったものづくりに次第に限界を感じたふたりは、純粋にデザインを追求するべく、スウェーデンへの留学を決めました。
「北欧は冬が暗くて長いでしょう。だから、家の中で快適に過ごす工夫が、インテリアにも反映されているんだと思います。自ら家の改修をしたり、IKEAで買ったキッチンを自分で設置したりと、一般の家庭にDIYの精神が根付いているから、作り手への理解とリスペクトがある。ものづくりをする環境としても、すごく心地よかったです」と潤さん。
潤さんの渡航から少し遅れ、生まれたばかりの息子さんを連れてスウェーデンへ渡った柚香さん。はじめての子育ては、日本から遠く離れた異国の地で経験することになりました。
「向こうで子育てをできたことは、とても良い経験になりました。病院では日本語の通訳さんを用意してくれたり、子供や高齢者といった弱い立場の人も、当たり前に暮らせる仕組みが、街全体に根付いるので、ストレスなく過ごすことができました。」
「窓台に小さな小物やキャンドルが飾られ、その上にはたいてい照明がかかっていました。それは部屋のなかを照らすためだけではなく、街の景観から暗くて長い冬を少しでもやわらげようとする北欧の人々の工夫のように感じました。」
街ゆく人を楽しませる工夫を、家の中へ持ち込むこともやはりシェアする意識からなのでしょう。窓辺をともす灯りが織りなす夜の街並みはとても美しかった、と当時の景色を思い返しながら教えてくれました。
約4年間の留学から帰国後、家族はスウェーデンで過ごした日々を彷彿とさせる、自然豊かな白州へ。北欧で学んだシンプルかつ機能的なデザインと昔の日本の暮らしから得たヒントをたよりに、「アトリエヨクト」を立ち上げました。
「アトリエヨクトが提案するのは、参加型家具。使い手の自由な発想で、思いもつかないような使い方を生み出していってもらいたいです」と話すふたり。
使われるさまざまなシーンをイメージして、機能的な仕掛けを持たせた、どんな生活にも馴染むシンプルな家具や道具。モジュールを共有して併用性を持たせることで、より使い勝手が広がったといいます。
アトリエヨクトがプロダクトとして最初に作ったオカモチは、日本で古くから親しまれてきた道具を、現代の暮らしに合わせてリデザインしたもの。家具の延長でもあるような“運べる道具”は、料理を運んだり、収納道具に使ったり、使う人にあわせてその役割を変えます。
使い手によって、生活のあらゆるシーンに自由に溶け込むモノ。それは、同じく暮らしのサイズを限定して展開する、〈14-23〉が大切にすることでもあります。余白を持った軽やかな空間に、布を取り入れるなら、たとえばこんな風に。
L字に大きな窓が並ぶ1階のリビングに迎えるのは、軽やかな〈TOSS〉のホワイトとライム。
家具や空間と調和をとってくれるホワイトを間に挟むことで、鮮やかなカラーも自然に馴染みます。
クリップでとめるだけでカーテンとしての役割を持つ、〈14-23〉は季節や気分にあわせて気軽に模様替えを楽しめます。
「北欧では暮らしのなかに、とても身近なものとして布があり、道具としてはもちろん、インテリアとしても自由に取り入れている印象がありました。日本では、布を生活に取り入れる習慣があまりないですが、こんな風に1枚の布だと、気軽に楽しめる人が増えそうですね。」
日常の風景を切り取ったfrom earthシリーズの〈KOMOREBI〉は、本物の木漏れ日と重なるように、やわらかく光を取り込みます。
2階のワークルームへ取り入れたのは、リサイクル技術を活かした、厚手の〈Ahaha〉。原料の色をそのまま生かした穏やかなアイボリーとグレーは、集中したい空間をすっきりと仕切ることができます。2枚の上下を変えて、統一感を持たせつつ遊び心もプラス。
階段を上がった先にある本棚スペースには、リビングと同じく、ほどよい透け感の〈TOSS〉ホワイトを。
「日当たりのいい場所なので、本の日焼け防止に活用できそうです。シンプルな白の布は、圧迫感なくすっきりまとまってうれしいです。」
やわらかく肌触りのいいリサイクルリネンを使った〈Re.nen〉は、ベッドリネンに。良質なシルクノイル糸から作る〈KINU〉は、ナチュラルな素材感で、寝室の窓辺に優しく馴染みます。厚手の布は、強い日差しは遮り、室内の灯りをつけても透けることがないため、夜も安心してくつろげます。
アトリエヨクトとして、最も大きい製作物ともいえる住まいは、柚香さんの設計によるものです。スウェーデンでの暮らしをヒントに作るこの家は、設計士としては最後の仕事だったそう。
「設計の段階で、心掛けたのは“生活をクリエイトするための、ニュートラルでいられる場所”。少ないエネルギーで一年中快適に過ごすことができる高気密高断熱の住まいは、西日を積極的に取り入れることで、外が氷点下でも、室内は快適な温度を保ってくれます。」
家の中にある唯一の暖房器具であるロシアのペチカストーブ。レンガで覆われた蓄熱性のストーブは、薪ストーブと違って温まるまでに時間がかかる分、一度暖まった空気はなかなか冷めにくいのが特徴。ほんのり温かいレンガの上は、冬場は猫たちに大人気のスポットだそう。
ペチカストーブ一台で家中が効率よく温まるように、敷地のわりにはコンパクトな空間づくりに。回遊できる間取りにこだわって、寝室以外はワンルームのようにも使えます。
「持ち運べる家具」をコンセプトするアトリエヨクトは、自分たちの家も、持ち運びの対象のひとつ。最後に、設計当初からのこんな計画を教えてくれました。
「いつかこの家のウッドデッキを船着場に見立てた、それに寄り添う、小屋を作ろうと考えています。敷地内を船みたいに漂う小屋を」。まあ、何年先になるかわからないですけどね、とふたりは笑い合います。
14-23 TOSS (LIM/WT)
リネンとポリエステルの糸をバランスよく混ぜ合わせ、軽くて心地よい光を取り込むしなやかなテキスタイル。
10,800円(税込11,880円)
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