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いい風が吹く方へ。旅をヒントに暮らしを紡ぐ、詩人の家。

ある時は、光を取り込む窓辺に。
ある時は、食卓を華やかに彩るテーブルに。
ある時は、風合いの良さを肌で感じるベッドリネンに。

使う場所や⽤途によって、その布の表情はがらりと変わる。
さまざまな⼈びとの暮らしから、〈14-23〉がある⾵景をお届けします。

 

いい風が吹く方へ。旅をヒントに暮らしを紡ぐ、詩人の家。

詩とデザインのアトリエ「してきなしごと」を開く、詩人・グラフィックデザイナーのウチダゴウさん。北アルプスの麓に構える自宅兼アトリエは、第二の故郷と話す、スコットランドで過ごした日々をヒントにした、穏やかな時間が流れていました。ご夫婦と2匹の愛犬が過ごす森の家で、暮らしの布はどんな風をもたらすのでしょうか。

 

独立を機に、夫婦で新天地へ

東京から長野県松本市へ、夫婦で住まいを移したのは、2009年冬のこと。何度か旅行で訪れた街の雰囲気が気に入り、独立を機に新天地での生活を選びました。

「今でこそ、ジャンルもさまざまな個人店で賑わいますが、当時はカフェすらほとんどないような街でした。でも、その何も染まっていない風景が居心地良かった。訪れるたびに心を動かすこの風に、乗ってみてもいいんじゃないか。そんな直感に従って、移住を決心しました。」

 

思いがけず始まった森での暮らし

暮らし始めて数年で、移住者は増え、街の魅力は加速。詩の活動も軌道に乗っていくなか、ウチダさんは自身の住まいに目を向けるようになりました。

「古民家を借りて、改修しながら暮らそうと思いました。だけど、なかなかいい物件に巡り会えない。街を歩いて見つけた物件の大家さんに直接交渉するも、誰も首を縦に振ってくれない。それなら、自分が理想とする家を、一から建ててみようと。」

これまでの物件探しの苦労が嘘のように、探し始めてすぐ、希望した条件の土地と出会います。その地に導かれるように、とんとん拍子にことは進み、8年住んだ松本市を離れ、自然豊かな安曇野市に新たな拠点を築きました。

構想に3年、着工からも8ヶ月ほどかかったという新居は、ウチダさん自らラフを描き、デザインしたもの。ドアノブやレールのひとつとっても妥協せず、ショールームで実物を見ながらイメージを擦り合わせていきました。

 

生活動線から考えた収納

「細かい部分まで、自分たちの暮らしの形にフィットするようデザインしました。たとえば、ぼくも料理をするので、キッチンカウンターは通常よりかなり高い90cmに。食器棚や本棚は、モノを入れた状態で高さを調整したかったので、大工さんには頼まず、完成後に自分で取り付けました。」

「コストの都合からオープン収納を採用しましたが、隠さないことで、余計なモノを溜め込まず、定期的に持ち物を見直すようになりました。」

寝室に設けることが多いクローゼットは、家事動線を考えた結果、バスルームとランドリーの直線状に配置。

「高気密・高断熱の家は、外気から無駄な湿気の流入が少ないので、室内干しでもあっという間に乾きます。乾いた衣服は、ハンガーごとクローゼットに収納しています。」

ワードローブの中身は、青い服がずらり。

「昔、青い車に乗っていたら、“ウチダゴウは青だよね”と、イメージが付くようになったんです。毎日服を選ぶのも面倒だし、引っ越しを機に、ワードローブは青で統一しました。本当はピンクが好きなんだけどね(笑)」

普段は開け放たれたクローゼットを、さらに気持ちよく使うなら、暮らしの布の出番です。壁の色とあわせた、さわやかな〈TOSS〉のホワイトをさっとかければ、目隠しや埃除けとして、扉の代わりに布を活用できます。

 

いつもの寝室をホテルライクに

暗めのグレーに塗った壁で、しっとりと落ち着いた雰囲気を演出するベッドルーム。空間にぴったりと収まるパレットのベッドは、ウチダさん自ら作ったもの。

いつもの寝具に〈Re.nen〉のクッションを追加すると、途端にホテルライクな印象に。落ち着いたミントやチャコールグレーのカラーがアクセントとなって、空間に奥行きを生み出します。

窓辺にかけるのは壁と同系色の〈TOSS〉のグレー。薄手の布を通して、朝の日差しをやわらかく迎え入れます。

 

好きなものを集め、フィットする瞬間を探す

木をふんだんに使った室内は、山小屋のような素朴さを感じる一方で、散りばめられたデザイナーズやヴィンテージ家具から、ほどよくモダンな印象が漂います。

オープンな収納を採用した室内は、様々なモノが並ぶけれど、不思議と雑然としていない。棚いっぱいの本や、窓辺の植物、旅先で出会った器やオブジェなどが、小気味よく配置されています。

二階の本棚の隅に並んだソファは、滞在するゲストが本を読むスペースに。さりげないワンシーンも、空間づくりにこだわりが感じられます。

「ソファは引っ越し祝いに友人にもらった、アメリカの古家具。サイドテーブルは、松本民芸家具。壁にかかるオブジェは、友人の作家が作ったもの。同じ年代やブランドもので家具を揃えたら、馴染むのは当たり前だけど、それはウチダゴウの家ではない。自分のなかの感性で、好きなものをどう合わせるか。ばらばらに集めたものから、いかに調和する空間を作るか。それを考えるのが楽しい。」

 

気づけばそばに「詩」があった

10代の頃から、詩を書き始めていたというウチダゴウさん。言葉を生業にするまでには、どのような背景があったのでしょうか。

「中学生の頃、沢木耕太郎や星新一の本を好んで読んでいて、憧れるようにエッセイや小説を書いていたんです。ただ、長い文章を書くほど根気がなく、だんだん短くなっていき、なんとなく詩のような形になっていきました。」

勉学の傍ら詩の制作は続け、大学卒業後はイベントを主催し言葉を通じた交流を広げていきました。

「ずっとやっていて、誰もやっていない、それが詩でした」とウチダさんは言います。

「たとえば木工作家とか、写真家とか、どれも楽しそうだけど、上手い人がすでにもうたくさんいる。でも、詩は、とくに僕のような詩人は、そうそういないだろうから、仕事として続けてみようと思ったんです。」

「詩って言葉だから実体がないでしょう。だから、詩集として一冊の本にまとめたり、本のある空間を演出したり、本を持つ人の表情を写真におさめて伝えることで、詩が物質的になる。言葉がもっと身近な存在になると信じています。」

「してきなしごと」であるかどうかを理念に、写真や絵、時にはチョコレートやワインボトルのパッケージなど、さまざまなモノに言葉を乗せて、詩の持つ可能性を広げていきます。

 

2013年から続く、詩を巡る旅

俳句や短歌を文化に持つ日本において、詩はマイナーな存在。「詩の本場であるヨーロッパで、自分の詩はどう見られるのだろうか」と、考えたウチダさんは、知人のツテを頼って、スコットランドへ向かいました。

「はじめて訪れたのが2013年。現地の空港からバスに乗り換え、最寄りの駅へ降り立った瞬間、いい風が吹いたんです。それは、松本への移住を決めた時と同じ風でした。“毎年ここへ来よう”と、その瞬間に心を決めました。」

「スコットランドでは、伝統的なイベントを開催する時に、詩の朗読は付きもの。日本でお祭りの際に歌をうたったり、盆踊りをしたりするのと同じように、詩は身近な存在なんです。」

2年目以降の滞在では、自身の詩を英訳し、自主的に展示会を開催。根気強い活動によって、日常的に詩に触れている人々にも、ウチダゴウさんの詩は受け入れられていきました。

「一生のうちに、いろんな国を回って、いろんな風景を知るという人生もあるけれど、ぼくは、第二の故郷として、暮らすように旅をする地がある人生を選びました。」

 

内と外をつなぐ窓辺の風景

スコットランドの街を散策中に、印象的な家があったといいます。

「それは高台に立つ一軒の家で、カーテンの開け放たれた窓辺には、黄色いチューリップが飾られていたんです。部屋のなかを隠すように、カーテンを閉め切った日本の家とはちがって、街の風景の一部を作るように飾られた窓辺が新鮮でした」

窓辺に迎える布は、空間を遮断するためでなく、むしろ内と外をつなぐアイテムとして暮らしを鮮やかに演出していました。

そんな記憶を思い返すように、空間を飾る演出として一枚の布を迎えます。間接照明のオレンジの光に照らされ、しなやかに揺れるのは、from earthシリーズの〈SORA〉。薄手の布にプリントされた、台風のあとの淡いピンクのグラデーションが、暮らしのなかにも心安らぐ自然の風景を持ち込みます。

「視線を隠すためではなく、ただそこに“在る”という使い方が素敵ですね。生活空間にはもちろん、開催する朗読会の演出など、非日常な空間を飾る時にも活躍してくれそうです。」

 

暮らしに彩りを与える、無駄のないものづくり

寒さの厳しいスコットランドの暮らしに欠かせないもののひとつに、ブランケットがあります。現地で出会った「STAG&BRUCE」のラムズウール100%のブランケットは、毎年滞在のたびに購入するほどのお気に入り。2020年からは、自身で輸入販売を手がけています。

「肌触りがよく、通気性と保温性に優れたラムズウールは、通年を通して愛用しています。残糸を使った無駄のないものづくりも魅力のひとつです。」

ウチダさんが惚れんこんだブランケットと同じように、無駄のない製法で作られるのが、日本で100年続くリサイクル技術を活かした〈BAUMKUCHEN〉。庭の樹々が映る窓辺に、梁にかけたロープでラフに吊るす。残糸を使ったやわらかな質感が、空間に穏やかな印象を与えます。

 

やわらかな灯りがもたらす心地よさ

「スコットランドの家庭では、夜でも必要最低限の灯りしか使いません。暖炉の火や間接照明の、手元がほんのり照らされる程度の灯りが心地いい。そんな夜の過ごし方をお手本に、我が家もほどよい暗さを大切にしています。」

薪ストーブを囲むようにレイアウトされた家具。揺らめく炎は、暖をとるという意味合い以上に、家族が集まり豊かな時間を過ごすシンボルとして、人々の心を掴んできました。

もうすぐ、安曇野の森で過ごす5年目の冬がやってきます。季節を巡り、日々の営みのなかで生まれた言葉は、詩となり、風となり、だれかの日常にそっと吹き付けます。

 

 

person / Go Uchida

edit & write / Arisa Kitamura

photo / Yukihiro Shinohara
いい風が吹く方へ。旅をヒントに暮らしを紡ぐ、詩人の家。

14-23 BAUMKUCHEN VOILE(BR)

透けにくい自然な厚みの場所と良く透ける場所の特性を活かし、空間に解け込むテキスタイル。

8,800円(税込9,680円)

ONLINE SHOP
いい風が吹く方へ。旅をヒントに暮らしを紡ぐ、詩人の家。

14-23 TOSS(WT)

リネンとポリエステルの糸をバランスよく混ぜ合わせ、軽くて心地よい光を取り込むしなやかなテキスタイル。

10,800円(税込11,880円)

ONLINE SHOP
いい風が吹く方へ。旅をヒントに暮らしを紡ぐ、詩人の家。

14-23 from earth - SORA

台風のあとの淡い色のグラデーションの空を写した、しなやかで軽やかなテキスタイル。

10,800円(税込11,880円)

ONLINE SHOP
いい風が吹く方へ。旅をヒントに暮らしを紡ぐ、詩人の家。

14-23 BAUMKUCHEN(IV)

リサイクル技術を活かし再活用した、しっとりと柔らかいマルチテキスタイル。

10,800円(税込11,880円)

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